聖なる怠け者の冒険

聖なる怠け者の冒険

2021年7月24日

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「聖なる怠け者の冒険」森見登美彦 朝日新聞出版

先日、ちょっとした事で夫が代官山の某レストランのお食事券をゲットした。結構なディナーが楽しめるというので、では、そのお店に午後6時にね、と約束をした。

実は、私は代官山なんて洒落た町に足を踏み入れたことは一度もない。何度もグーグルマップで調べて、地図をプリントアウトまでして、所要時間に30分プラスして家を出た。恵比寿の駅で、持ってきた地図と、現在地の表示された掲示地図をたっぷり五分以上眺めてから歩き出した。

五分以上歩いても、目指すランドマークが一つもない。渡るべき信号も、表示がまるで違う。広尾って書いてある・・・・もしかして。はたと気づいて、再度、恵比寿に戻る。やっぱり。地図を逆さまに眺めていたのだ。まるきり逆方向に、代官山はある。ひえー。

という訳で、逆方向に歩き出したら、地図に書いてあったのと、同じ名前の道路が歩ける。いいじゃん。暫く行くと、同じ名前の交差点があって、曲がると同じ名前の道に出る。ほうほう、合ってるわ。

それにしても、年をとるって悲しい。持ってきた地図の細かい字を見るために、その度にメガネを掛けねばならなくて、不便な事この上ない。メガネをかけっぱなしだと、今度は世間がぼんやりとぼやけてしまう。

などと嘆息しながら歩いていたら、おや、前方に見覚えのある後ろ姿が。で、駆け寄って肩を叩くと、おお、夫であった。やれやれ。広尾の方をお散歩してきた、と話したら苦笑いされた。それから、二人で歩いたのだけれど、目的のレストランを素通りし、そこで立ち止まる夫に、あろうことか、「もっと先だと思うよ、地図によると。」と言い放った私である。

席に着くと夫は、そこまで道に迷う人にはお勧めかもしれないよ、と言った。それが、この本なのである。

アルバイト探偵の玉川さんは京都の宵山の夜、道に迷って迷って迷いぬく。しかし諸君、迷うべき時に迷うのも実は才能なのであります、だってさ。

ずっと何かを探して迷い続け、歩き続ける物語である。代官山を目指して広尾で途方に暮れていた私には、妙に臨場感のある本だったこともまた、確かではある。

2013/11/5