聖地巡礼 コンティニュード 対馬へ日本の源流を求めて

聖地巡礼 コンティニュード 対馬へ日本の源流を求めて

2021年7月24日

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聖地巡礼 コンティニュード 対馬へ日本の源流を求めて~」

内田樹×釈徹宗 東京書籍

 
「聖地巡礼 リターンズ」に続く第四弾。今回は、対馬が舞台だ。対馬って、韓国のほうが近いみたいに感じるが、実は極めて古くからの日本らしさが濃厚に残っている場所らしい。日本神話の舞台でもある。
 
海幸彦、山幸彦の物語を子ども時代に読んだことがある。お兄さんの海幸彦の釣り道具を借りて釣りに出かけた山幸彦が釣り針を失くしちゃって、自分の剣を潰してたくさんの釣り針を作って差し出しても許してもらえなくて・・・・という部分をよく覚えている。随分心の狭い兄貴だな、許してやれよ、と思ったのだ。
 
対馬には、その山幸彦(彦火々出見尊)が釣り針を探しに海辺へやってきて出会ったという豊玉姫のお墓がある。二人の間には子どもが生まれるが、その子を渚において、豊玉姫は海宮に戻ってしまう。が、心配なので妹の玉依姫を乳母代わりに送る。その玉依姫と彦火々出見尊の間に生まれた子がカムヤマトイワレビコ、神武天皇である。海民系の人たちと内陸部に住む人達の関係性が、この神話には象徴されている。単純に、内部陸系が海民系を支配したというのではなく、融合の物語だと釈徹宗はいう。
 
異族同士が出会った時に、普通は殺し合うとか、奴隷化するとか、そういう対立的なことになるのだが、日本列島では、とにかく男と女の関係性に持っていって、婚姻によってふたつの部族後を融合させてしまうというソリューションが選好されたという。他者との曖昧な共生が、列島原住民たちの生存戦略で、神話にもそれが採用された、と分析されている。そういう、曖昧な、支配というよりは融合にしちゃうという日本的なあり方に、私は好ましさを感じる。
 
対馬は辺境の地であるが、海が交通の要衝だったころには、大陸への入り口であり、文化の流れ込む場所であった。であるからこそ、日本らしさを残していたのかもしれない。海流の激しさは、距離の近さだけでは計れない大きな隔たりでもあったのだろう。
 
対馬に行ってみたくなった。遠い昔を思い出せるような、そんな風景が見たいと思った。
 

2017/9/12