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「花豆の煮えるまで」安房直子 偕成社
山奥の宝温泉に住む小夜におかあさんはいない。おかあさんは山んばの娘で、小夜を産んですぐに山んばの里に帰ってしまったそうだ。小夜は、おばあちゃんとおとうさんと暮らしている。
ときどき、小夜は風になることができる。他の人には見えない鬼の子や紅葉の子と友だちになれる。山奥のてんぐの家をみることもできる。朴の木と話すこともできる。
不思議な世界に静かに入り込める物語だ。だけど、読み終えてから、なんともやり場のない気持ちが残る。充足感や満足感とは違う、取り残されたような寂しさだ。
小夜は、自分の部屋にもどって、そっと窓をあけました。そして、遠い空を見あげて、
「山んば、ごめんね。」
と小さい声でつぶやきました。 (引用は「花豆の煮えるまで」安房直子より)
物語の最後にある文章だ。ごめんね、で終わっている。ごめんとは言ったけれど、それが伝わったかどうかはわからない。許してくれたかどうかもわからない。「天の鹿」もそうだったけれど、だから、それで、どうしたらいいの、と私は途方に暮れてしまうのだ。
2015/3/5