西南シルクロードは密林に消える

西南シルクロードは密林に消える

2021年7月24日

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「西南シルクロードは密林に消える」高野秀行 講談社

新作が出たら即買いする作家の一人、高野秀行。10年以上前に、彼が渾身の力を振り絞って書いたのに、絶版になってしまった本。「地図のない場所で眠りたい」でも、売れなかったことをちょっと愚痴ってたな。

西安からヨーロッパへ抜ける有名なシルクロードの他に、砂漠だかステップだかを通る北方シルクロードや海がつなぐシルクロードがある。だが、それとはまた別に、中国四川省の成都を出発して、ビルマを北部を通って、最後はインドにつく西南シルクロードが存在した、という。成都は古代シルク産業の中心地であったという。

この本は、その知られていない失われた西南シルクロードを陸路で踏破し、ビルマのゲリラの協力を得て、最後はインドに密入国した探検(?)の記録である。

10年以上前のビルマは、まだ鎖国政策の真っ最中だった。タイで知り合った反政府ゲリラの一人から連絡をとってもらって、なんと対立する二団体のゲリラの保護を得ながらビルマ北部を踏破し、インドに至った。途中、象に乗っての移動もあったという。象は、揺れが酷く、象酔いして、ひどい乗り心地らしい。

当時のビルマは時代を間違ったかのような状態で、漁師がもっている銃が1860年台のもの、と聞かされて、1960年台の間違いじゃないかと突っ込んだら、本当に日本の幕末あたりに生産された銃で、まだ現役だったりしたというから笑ってしまう。車の代わりに牛車が行き交う町もあった。

最終的にインドに密入国した筆者は、日本の領事館に正直に自首し、領事の付き添いでインド警察に出頭、逮捕されることもなく、奇跡の国外退去となる。が、このことが、後の彼のインド入国拒否につながっていく・・・のは、高野ファンならわかるけど、そうじゃないとわかんない話だよね。

大変な旅を成し遂げたにもかかわらず、特に評価もされずに絶版になってしまったこの本について高野氏は嘆いていたが、見事に講談社文庫で復活したし、実は外務省では第一次資料として高い評価を受け、ビルマを知るための必読本となっているという。

案外やるじゃん、高野さん。

2014/8/22