贋作

2021年7月24日

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「贋作 桜の森の満開の下 足跡姫」野田秀樹 新潮社

 

11月1日に父を亡くした。それから、葬儀やら役所やら税金やら年金やら相続やらありとあらゆる手続きを端からやっつけて、10日目の夜、池袋の劇場で「贋作桜の森の満開の下」を見た。入手困難なプラチナチケットを友人が取ってくれていたのだ。
 
舞台は息を呑むほど美しい満開の桜でいっぱいで、そこに現れる人も鬼も姫も王もこの世の人とは思われず、ただただ美しく悲しく面白く、私は呆然と芝居に引き込まれていた。もしかしたら、筋もよくわかっていなかったのかもしれない。ただ、その場その場の人物たちの感情に任せて笑ったり怒ったり悲しんだりしながら、心が洗われていくような気がした。
 
舞台装置は極めてシンプルで、綺麗な色のリボンがひゅっと引っ張られては組み合わされ、それが部屋になり、境界になり、箱になり、世界を作った。そして、桜が舞い散っていた。
 
芝居がはねても、うまく感想を言うことも出来ず、綺麗だった、美しかった、としか言えなかった。どんな芝居だったかも説明できない気がした。
 
それで、本を読んだのだ。そうか、こんな話だったのだなあ、と改めて思う。いったい私は何を見ていたのだ、と思うが、確かに舞台を見ていたし、芝居を見ていたのだとも思う。
 
この芝居の歌舞伎版が4月に上映されるという。見に行こうと思う。今度は、もう少し筋を追って見られるかもしれない。

2019/3/28