遺体 震災、津波の果てに

遺体 震災、津波の果てに

2021年7月24日

43
「遺体 震災、津波の果てに 石井光太 新潮社

これも「ノンフィクション新世紀」がらみで夫が図書館から借りた本。石井光太の本は、読んでいてあちこちが、それこそ心も体も痛くなってしまうような本が多いので、私はちょっと怖かった。でも、がんばって読んだ。

怖がることはなかったかもしれない。静かな筆致で、じわじわと哀しみが押し寄せてくるけれど。津波の後で驚くほどたくさんの遺体と向き合った一人ひとりの行動と気持ちが静かに穏やかに描かれていて、だからこそいっそう胸が辛くなるけれど。

原発のことにほとんど触れていないのが、むしろ良かった。本当に悔しいけれど、あの震災を語る時、原発の方ばかり向いてしまうと、私達は大事なものをたくさん取り落としてしまうのだ。自然災害と人間との関係性をしっかりと見据えることができなくなってしまうのだ。だから、石井さんはあえて原発にあまり触れなかったのかもしれない。

私は、この本を読むことで、気がつくことがたくさんあった。沢山の人が亡くなったこと、その中で、沢山の人が、自分にできることを見つけて必死に働いたこと。助け合ったこと。そして、大きな哀しみの中でも、多くの人が生きようとしていたこと。

忘れてはいけない、と思った。

2013/7/4