金平糖の味

金平糖の味

2021年7月24日

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「金平糖の味」白洲正子 新潮文庫

 

正直いうと、白洲正子のエッセイはちょっとおっかなくて、読むと、ごめんなさい、私が悪うございました、と言いたくなるようなところがある。背筋がぴんと伸びたおばさまに、お前は心構えがなってない、行儀が悪い、と叱られそうな気がしてびくびくしてしまうのだ。
 
だけど、ときどき読むと、気持ちが引き締まるところはある。私のような怠け者は、白洲正子さんにたまに叱られでもしないと、どんどん堕落していくのかもしれない。
 
印象に残った文を二つほど、引用しておく。
 
良寛が、いまだに民衆に親しまれているのは、彼の教養や学問にあるのではなく、片々とした日常の行為にあり、そのおろかな程の無邪気さにある。よほどの自信と、余裕がなかったら、中々こう手放しにふるまえるものではない。
(「ユーモアについて」より)
 
祖父樺山資紀は、私が十二歳の時に死んだので、記憶にはよく残っている。が、いたって寡黙な人間であったから、自分のことは語らなかったし、面白い逸話といったようなものは一つもない。世間では、明治の元勲のようにいわれているらしいが、本人にそういう意識はまったくなかったようで、いつもこんな風なことをいっていた。
「ほんとうに立派な人たちは、みな明治の維新で死んでしまった。あとに残ったものはカスばかりだ。」
                         (「晩年の祖父より」)
 
 
引用はいずれも「金平糖の味」白洲正子 より

2013/10/1