十皿の料理

十皿の料理

2021年7月24日

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「十皿の料理」斉須政雄 朝日出版社

 

先日、焼き鳥屋へ行った。席はオープンエアというか、要するに外にしつらえてあって、ガラス越しに職人さんが焼いているのが見える。焼きあがるとガラスが開いて、皿が渡される。ガラスが閉じられているのは、炭火の熱気がこちらに伝わらないためである。タオルを頭に巻いた職人さんは汗だくで、時折水分を補給しながら、黙々と焼き続ける。焼き鳥は絶品であった。とりわけ炭で焼いた皮はパリっとして塩が効いて、実に旨かった。我々は客で、彼は仕事であるにしても、この夏の暑さの中、毎日美味しい焼き鳥を焼き続ける仕事は、なんと尊いものであるかと思った。
 
この「十皿の料理」はコート・ドールというフレンチレストランのシェフの本である。彼がフランスにわたって料理を学んだ中でのピソードとともに、十皿の料理の作り方と味わいが描かれている。
 
この十皿は僕の全容ではないが、まごうことなく僕の一部です。
この十皿の根底はすべて同じです。「誠実さ」です。
                   (引用は「十皿の料理」斉須政雄より)
 
と「はじめに」にある。フランスで鍛えられたこと、嫌な目にあったこと、素晴らしい人との出会いがあったこと、学んだこと、教えられたこと。全てが料理の中に込められている。どうしても乗り越えられない差別に出会ったことも、一生の良き友、同士に出会ったこともすべて料理を通して描かれている。
 
美味しいものを作ることは、素晴らしい仕事である、と私は思う。そして、それに全身全霊を傾ける人を、尊敬する。この人の料理を食べてみたい。心から、そう思った。

2015/7/27