雲南の妻

雲南の妻

2021年7月24日

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「雲南の妻」村田喜代子 講談社

 

村田喜代子さんは、私の大好きな作家である。この人の書くものは、おいしい水のようにごくごくと飲み干せてしまう。と、いつも思っていたのだが、忘れていた。実は、この「雲南の妻」だけは、以前に頓挫したままだったのだ。
 
なぜなんだろう。何度読み返そうとしても、なぜか全然頭に入ってこなくって、そのまんま図書館に返却した覚えがある。先日、たまたま図書館の棚でこの本と目が合って、「今ならイケる!」と直感的に思って借りてきた。そうしたら、本当にスイスイと読めたのだ。
 
何が駄目だったのかなあ。今となってはわからない。村田さんの本は、どこまでが現実で、どこまでが空想で、どこまでが嘘で、どこまでが本当か、よくわからない、境目のない物語が多い。この本もそうだ。
 
お茶や衣類などを買い付ける中国駐在商社マンの妻が、現地の少数民族の通訳の女性と結婚する話。そう、妻が、女性と結婚するのだ。その少数民族は、男性とではなく女性と結婚する選択がある。別に同性愛とかではなく、すでに結婚している女性と更に家族になるというやり方もあるのだ。その結婚により、商社マンである夫は買い付けがしやすくなり、家族内の通訳がいることにもなる。中国での友人の少ない妻は、なんでも話せる良き友を得ることになり、通訳の女性は、未婚女性のハンデを乗り越えることができる。めでたい限りではあるが、それはやはりうたかたの夢のような出来事であった・・・・。
 
読み終えて、私も夢をひとつ見ていたような気持ちになる。だからどうなの。なんて思う必要はどこにもなく、この世には不思議な世界が地続きであって、つながっている、と素直に思える。村田さんの本は、だから、好きだ。
 

2015/4/8