この30年の小説、ぜんぶ 

この30年の小説、ぜんぶ 

29 高橋源一郎 斎藤美奈子 河出新書

旅行記にかまけていて、久しぶりの本の話。この本は副題が「読んでしゃべって社会が見えた」である。高橋源一郎と斎藤美奈子は、雑誌「SIGHT」で2003年から「ブック・オブ・ザ・イヤー」という対談を始めた。これは、毎年、暮れ近くに、その年を代表する小説を選んで二人が集まり、それらをいくつかの山に小分けしてからそれらについて話していくというものである。二人とも全部読んでいる本について話しまくる。長い時は八時間以上話していたという。そして、高橋氏はこの対談を通して

ほんとうに社会のことが知りたいなら、小説を読むべきなのである。なぜなら、小説家たちは、誰よりも深く、社会の底まで潜り、そこで起こっていることを自分たちの目で調べ、確認し、そしてそのことを、わたしたちに知らせるために、また浮上してくる。そしてそのすべてを小説の中で報告してくれるのだから。
(引用は「この30年の小説、ぜんぶ」より)

と確信したという。その対談は雑誌の休刊とともに終わったが、いくつもの媒体でつづいた。この本は、その対談の終わりごろと、その続きが収められている。「この30年の小説、ぜんぶ」と言っているけれど、本当に30年間に出された小説をぜんぶは読んでいない。ぜんぶ読んでみたかった、という思いもあるし、ぜんぶ読んでみたのと同じくらいいろんなことがわかった、という意味もあるという。ただ、この本で挙げられている本は、もちろんふたりともぜんぶ読んでいる。

私は斎藤美奈子を非常に信頼している。高橋源一郎は、その著作をそれほど読んだことがないのでどうこう言えないのだが、優れた読み手であることは間違いないと思う。そして、この二人の、本にまつわる対談はとても刺激的で興味深いものであった。私は割と本を読んでいる方だと思っていたのだが、この本で取り上げられている本の半分程度しか読んだことがないことに気が付いた。ああ、また読みたい本が増えちゃったわ。

この本の最後のほうに「旅する練習」が載っていた。私はこれを読んだ人の感想が聞きたくてならなかったので食いつくように読んだ。斎藤美奈子がやっぱり「ただ、このラストはどうなんですか?」と言っていた。不条理で唐突。でも、高橋氏が作者に聞いたところ、この結末は最初から決めてあったのだそうだ。そうなのか・・・。であるのなら、私は好きじゃない、とここではっきり書いておこう。私は読後、数日間、そのことばかり考えるほどに衝撃を受けてしまった。それをいまだに忘れられない。忘れられないからいい小説だとは言えないからね。

と、思わぬところで気持ちの整理ができた、ということが、私にとってはこの本を読んだ意味のひとつとなった。ああ、読み残してある本を読まなくちゃ!!