うさぎとマツコの往復書簡

うさぎとマツコの往復書簡

2021年7月24日

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「うさぎとマツコの往復書簡」中村うさぎ マツコ・デラックス

毎日新聞社

 

買い物依存症からホスト狂いに走り、美容整形を重ね、性的にも放蕩を重ねた中村うさぎと、デブで女装のゲイであるマツコ・デラックスの往復書簡。どんなにおどろおどろしいものかと思われる人がいたら、読んでみて。自分の人生にこれだけ真摯に向き合い、苦しみ、探し、考え続けている人たちは他にいないんじゃないかと思うほどだから。胸をかきむしられるような思いで私はこの本を読んだ。
 
何万人、何億人から賞賛されることで満たされるのなら、マイケル・ジャクソンは死なずに済んだのかもしれない(引用は「うさぎとマツコの往復書簡」より)というマツコの言葉に私は打ち震えるのである。
 
たまたま、この本を読んだ日、新聞に鶴見俊輔の言葉が載っていた。
どんな人でも、家の中では有名人なんです。ー人間がそれ以上の有名というものを求めるのは間違いではないかと思いますね。(朝日新聞2015年11月15日)
 
ネットに依存する人たちはみんな肥大化した承認欲求を持て余しているみたいに見えるけれど、人に認められる、有名になるということは、その程度のものなのである、と私は思う、改めて思う。マイケル・ジャクソンも、マツコも中村うさぎも、あなたも私も、たとえ大勢に認められたからといって、幸せになれるわけではないのだ。
 
この二人の互いへの信頼のあり方は、胸打つほどに美しい。人は差別する生き物であって、その差別なしにはきっと自分を保持できない、と私はこの本を読んでまたまた思ってしまうのであるけれど、それを認め受け入れた上で、自分が差別され蔑まれるとしても、それゆえにそれを武器としてありがたく生きていこうという強い意志、自分を支える力を彼女たちは確認しあっていく。苦しいけれど、嬉しいこともある、人生を楽しんでやるという気概もある。ぎりぎりのところで、覚悟を持って生きている人間は美しい。でも、怖い。
 
人間の切なさ儚さ苦しさ醜さ美しさのすべてを見せてくれるような珠玉の書簡集であるとさえ、私は言いたい。
 

2015/11/16