じゃあまたね

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2021年7月24日

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「じゃあまたね」清原なつの 集英社

子供の頃、親に漫画を禁止されていた私は、大学に入って自分の収入(バイトを始めたからね。)で漫画を買うようになった。それがどんだけ嬉しかったことか。

当時「りぼん」に連載された「花岡ちゃんの夏休み」は衝撃であった。可愛らしかったり、あるいはドジなダメっ子が花開くようなストーリーが全盛の時代に、主人公、大学生の花岡ちゃんは生真面目で本ばっかり読んでいて、可愛げもなく自分の世界だけで生きている。そして、本屋で一冊の本を取り合った、やっぱり本の虫で小難しいことしか言わない変な男と哲学を語り合ったりするようになる。それは、いわば自分を高めるための時間であると認識していたのだが、だんだんその男が気になってきて、でも、それを恋だなどと認めていいものかどうか、そんな下賤な感情ではないつもりなんだが、なんて思っているうちに、その男がハゲであるとわかる・・・・。

もう、これって等身大の世界じゃないの、と思ったものだ。まさしく小難しいことばかり弄り回す、全く可愛げのない、おしゃれでも素敵でもない小汚い女子大生だった私そのものではないか。そんな花岡ちゃんの変な恋物語は、私を撃ち抜いた。以後、花岡ちゃんシリーズだけでなく、妙な歴史物とか、SF漫画とかに清原なつのは展開していくのだが、そのどれもを私は熱中して追いかけた。が、いつの間にか、彼女の漫画が入手できなくなっていった。

たまに古本屋で「家族八景」だの「花図鑑」だのを発見しては喜び、本の雑誌社から「利休」がでているのを発見して慌てて購入したりはしたのだが、あんまり現役の漫画家さんとしては認識していなかった。そうしたら、最近何だったかなあ、図書館で何冊か雑誌をパラパラ眺めていたら、清原なつのの新作が紹介されていたのだ。それで慌てて検索したら、ネットで売ってるじゃないの。それが、この本だ。

この本は、清原なつのの子供時代から、いかにして漫画家になったかが描かれるらしい。まだ、今のところ、高校生までのエピソードだけどね。図書館で毎日二冊本を読む、二冊借りて帰ってきたなんて話、私とおんなじじゃないの。将来の夢は猫になることだったというのは違うけどさ。祖父が、漫画を買うお金はいくらでも出してくれていた、というのは羨ましい。ああ、そんな環境だったらなあ。夢だわ。

花岡ちゃんシリーズの相手役、簑島さんがハゲだったのは、ユル・ブリンナーに由来するというのがわかって笑った。そうか。ユル・ブリンナーならかっこいいもんな。

2018/12/20