それからはスープのことばかり考えて暮らした

それからはスープのことばかり考えて暮らした

17 吉田篤弘 中公文庫

吉田篤弘って誰だっけ。と検索したら「罪と罰を読まない」に参加してた人だった。そして、おお、クラフト・エヴィング商會の一人ではないか。

持ち運びに便利な文庫本、というくくりだけで本を探しに書店へ行った。「担当者おすすめ」という帯が巻いてあって「じっくり煮込むスープの温もりとゆっくり流れる幸せな時間」みたいなことが書いてあった。食べ物の話は、その人自身を映し出す、と最近よく思う。なので、読んでみたくなった。そして、何の先入観もなく読んだ。気持ちいいくらい、するするとこの物語の世界に浸ってしまった。

失職した青年が、市電の走る、教会の見える街に引っ越して、そこでとてもおいしいサンドイッチ屋さんに出会う。毎日、仕事を探さなきゃ、と思いながら、つい映画館に行って、とある昔の女優さんの出ているマイナーな映画を日がな見てしまう。そこから静かに物語は流れ始める。

特に何か大きな事件が起きるわけではない。ただ、心を込めて料理を作ることや、おいしいと感じること。それが、人と人とをつなぎ合い、助け合うことにつながっていく。そんな世界が心地よい本だった。おいしいスープとサンドイッチが食べたいなあ。