のはなしし

のはなしし

2021年7月24日

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「のはなしし」伊集院光 宝島社

「のはなしさん」に続く伊集院光のエッセイ集。
最近、伊集院光にハマっていることは、以前にも何度か書いた。この本には、ここ十年ほどの間にメールマガジンに連載したエッセイを加筆修正したものや新作が、あいうえお順に並べられている。あいうえお順にしたせいで「ぬ」に苦労しているのには笑った。

ラジオで聞いたことがある話題も結構入っているが、文章にするとまた違った味わいになっているのに感心する。ラジオのおしゃべりは勢いがあるが、文章にはしみじみとした深みがある。大笑いすることはないが、ちょっと口元がほころんだり、それでいて胸がきゅっとなったり、喜怒哀楽すべてが入り混じったような感情がよびさまされる。

いつもながら、この人の「かみさん」に対する愛情と誠実さには胸打たれるものがある。亡き義弟の復活の呪文の話にぐっと来てしまった。本の最後にお世話になった人への〈special thanks〉が表示されているのだが、〈 very special thanks〉として「篠岡美佳」と「篠岡義憲」が載っていた。美佳さんは奥様だが、義憲さんは誰だ?義父か、飼っているイヌか?と不思議に思っていたら、亡くなった義弟さんだったのね。

この人の中には、暗い闇もある。時として、孤独に怯え、眠れない夜がある。脅迫観念にとらわれてしまう性癖もあるし、義務感に打ちひしがれるプレッシャーへの弱さや、完璧主義ゆえの苦しみもある。そういうものへの怯えや情けない思いもまた、率直に語られている。ただ、明るいだけではない。

いろいろな業が入り交じり合いながらの、笑い。この人が落語家出身だということがよくわかる本でもある。続編がでたら、また読みたい。

2014/8/26