ふたりの秘密

2021年7月24日

119

「ふたりの秘密」永六輔+矢崎泰久 ソニー・マガジンズ

 

永六輔が死んだ。永さんは、その昔、NHKでテレビファソラシドという番組をやっていて、そこにはデビューしたばかりの若いタモリも出ていた。素晴らしく面白いバラエティであった。それから永さんはTBSラジオによく出ていらして、私がおすぎとピーコを知ったのも、久米宏という瞬発力に富んだアナウンサーがいることに気がついたのも、永さんを通してだった。愛川欽也の深夜番組に出た永さんが、都バスは年をとると無料パスで乗れるという話をして、黒柳徹子が、じゃあ、私たち、歳をとったらみんなでバスに乗っておしゃべりしましょうね、と提案していた。若かったなー。みんな死んでしまって、残っているのは徹子さんだけだ。みんな、バスに乗る暇もなかった。
 
矢崎泰久は、その昔、「話の特集」という雑誌の編集長をやっていた。文化的で中身が濃くて深くてそれでいてお洒落で、私は毎月かかさず買って隅から隅まで読んでいた。永さんもそこで「無名人録」なんかを連載していて、それがのちにベストセラーになったりもした。矢崎さんは、永さんと野坂昭如と小沢昭一を集めて武道館で「花の中年御三家コンサート」をプロデュースしたりもした。若かったなあ。矢崎さんは、中山千夏を参院選に担ぎ出して当選させ、責任上、議員秘書をやったりもしていた。時は過ぎ、「話の特集」は突如倒産して廃刊となり、定期購読していた私には、なぜか「ごめんなさい」のバッジなんて送ってきたりしたっけ。
 
そんな二人がどういうわけか日本自転車振興会(JKA)の要請で2006年から自転車をテーマにトークショウを行っていた。いつまでやっていたかは不明である。この本はそのトークを書き起こしたもの。出されたのは2009年である。7年経って、永さんは死んじゃったけど、矢崎さん、お元気だろうか。
 
自転車にのるのが好きで、博打は嫌いな永さんと、博打が好きなだけの矢崎さん。二人の話はすれ違い、行き違い、それぞれが自分の言いたいことだけを言い合って納得する、まるでブーメランのような対談だ。でも、その根底には、長いこと続いてきた二人の友情があり、歴史がある。自転車の話をしているようで、昔の話や、かつての悪友の話がたくさん出てくる。死んじゃった人ばかりだ。筑紫哲也、岸田今日子、小沢昭一、野坂昭如、加藤武、赤塚不二夫・・・・。きらめく人々ばかりだ。
 
そう言えば矢崎泰久さんは小学校時代からの石原慎太郎の友達で、右と左に別れちゃったけど、石原は話の特集者が倒産するまで株主だったし、友達のままだった。彼には女装癖があったんだ、なんておっそろしい暴露もしているけど、ホントかな。
 
昔話をしていたその頃から、更に時が経って、永さんは死んでしまった。もう7年も前の本なのね。永さんがいないのは、さびしいなあ。

2016/11/13