イサの氾濫

2021年7月24日

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「イサの氾濫」木村友祐 講談社

 

本当は「イサの氾濫」単体で書籍化されているらしいのだが、私が図書館で発見したのは日本文藝家協会が編纂した「文学 2012」内収録のものだった。
 
東日本大震災後に、東京でうまく芽が出ない40すぎの男が帰省して、ひどい乱暴者だった叔父のエピソードを聞いて回る。親に認められず、才能もなく姿形も悪く、何をやってもうまくいかない叔父が暴れては周囲に迷惑をかけ、懲役を何度もくらい、今はどこで生きているかもよくわからない。主人公は、そんな叔父を自分に重ねあわせ、その中に歴史上の蝦夷の姿を重ねていく。
 
青森弁(南部弁)が生き生きとしている。抑圧された東北の歴史、蝦夷の記憶。原発と津波と震災。様々なものが重なりあって、東京という金ばかりかかる都市への苛立ちがあふれる。
 
なんだか呆然としてしまった。震災の一つの姿をくっきりと描いた作品なのかもしれない。

2016/4/20