26 東畑開人 講談社
新書大賞2026受賞。東畑さんの作品はこれまで何冊か読んできたけれど、これはその中でも読みやすくわかりやすく心にぐっと来た。そうか、カウンセリングってこういうものなのか、と腑に落ちるところがあった。
カウンセラーには守秘義務がある。なので、どのようにカウンセリングが始まり、どのように人が変わっていき、どこに着地するのか、具体的に書かれたものを読んだことはなかった。この本は、もちろん守秘義務違反をしているわけではないけれど、いくつかの事例をもとに、カウンセリングの全体像が書かれている。どのような困りごとを持った人が、どのようにカウンセラーのもとにやってきて、どんなことを目標にカウンセリングを受け、どのように変わっていったのか、どこで終わりを迎えたのかがかなり明白に描かれている。きれいごとではない、カウンセラー側の気持ちもきちんと書かれているのでとてもわかりやすかった。
それにしてもカウンセラーとは大変な仕事だ、と思う、いくつかのケースの中でも「子供をいつ産むべきか」を悩んでいる女性との長い長いカウンセリングの歴史の話が一番心に残った。子どもを産む話をしているはずなのに、夫の気持ちや関係性が全く考えられていない状態から始まり、その人の親子関係に何らかの引っ掛かりを見つけ、そこから、仕事上の人間関係や上司への怒りなどがあらわれ、自己肯定できるようになったはずが自己肯定だけを語る日々が続き、突然のカウンセリング中止宣言からカウンセラーへの怒り。そして、新が気付きへ向かう流れ。一人の女性の歴史としても興味深く、また、どこかで共感もありかつ反発もあった。これを読みながら私自身も自分の歴史を振り返り、新たな気付きを得るような感覚があった。そして、それらの揺れ動きに常に伴奏するカウンセラーという仕事の奥深さ、たいへんさ、有意義さを感じた。
心に残ったのは、「カウンセリングとは、ほんとうの話をすることを試み続ける場所である」という指摘である。人はこの世を生きるために、たくさんの苦痛や傷つきから逃れるために様々な鎧を着たり、仮面をかぶったり、嘘をついたりする。でも、ほんとうの自分はその内に常に厳然として存在する。すべてを脱ぎ去ることが難しくても、少しでも本来の、ほんとうの自分でいられるように、ほんとうのことを話せるようになることが、おそらく自由を手に入れる事であり、楽に生きられるようになることなのだ。そこへ向かう努力、試みがカウンセリングというものなのかもしれない。
