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「サキの忘れ物」津村記久子 新潮社
津村記久子を読むのは四年ぶりくらいかもしれない。久しぶりだったが、そうだ、この人、こういう芸風(?)だったなあ、と思い出した。
何も持っていない、自分の価値も信じられないような人が理不尽な目に合いながら、だんだんに物事を考えたり気がついたりして、なんとなくではあるが、自分を取り戻す、自分の価値に気がつく、これでいいと思えるようになる・・・みたいな物語。この本は、短編集だが、最初の表題作がやっぱり一番好きだったかもしれない。
高校をやめて病院のカフェでアルバイトをしている主人公が、お客さんが忘れていったサキの本をちらっと読んで見るところから、ちょっとずつ自分が変わっていくお話。そうだよなあ、本を読むってこういう出会いだよなあ、なんて思った。
何故か途中にゲームブックが入っていた。ゲームブックって、読者が自分でその先の展開を選んで読み進められる本。ダンジョン物とかで昔読んだけど、これは、夜遅く帰ってきたら自宅の鍵をなくしていた、ところから始まる「さあどうする」物語だった。何度読んでも情けないエンディングしか選べない私。難しいなあ。それにしても、何故、こんなスタイルを作者は選んだんだろうか。謎だ。
最後の短編は、隣のビルに窓越しに伝って入り込んじゃうという犯罪めいた話だったが、それが当たり前のように描かれていて、これまたツムラ節だなあ、と楽しんだ。
2021/1/27