ショー・ガールを観てきた

ショー・ガールを観てきた

2021年7月24日

 
 
学生時代から何度か、福田洋一郎演出の「ショー・ガール」を観てきた。
 
演者は木の実ナナと細川俊之、それに宮川泰がピアノを担当し、他にパーカッションなどもいた。小さなお芝居が先にあって、第二部がショー・タイム。お芝居は恋の始まりのお話が定番で、ハッピーエンドの後のショーはエネルギッシュな、幸せに満ちたものだった。
 
 
 
 
毎年、新しい演目が作られた。渋谷のパルコ劇場が定番だったが、結婚してからは仙台で見たこともある。名古屋に住んでいる時に、最後の舞台が行われたが、それはもうチケットが入手困難だった。ファンを集めて、ハワイでまで公演したらしい。
 
木の実ナナは素晴らしかった。体中を使って演じ、歌い、踊った。細川俊之は、木の実ナナに振り回されながら、汗だくになって頑張っていた。そのヘトヘトっぷりが、また良い味わいだった。キザでソフトな細川さんが、ここまで翻弄される、そこがまた舞台の醍醐味だった。
 
ショー・ガールが終わると聞いた時、そりゃそうだ、ムリだろうと思った。あんなに体を張った舞台を、その年令でやれという方がムリだろう、と。とりわけ細川さんの限界が来たのだろうと思った。残念だけど、仕方ないと諦めた。
 
私とほぼ同世代の三谷幸喜も、同時期にショー・ガールを見続けていたらしい。今回、彼がショー・ガールを復活させると聞いた時は、これまた大胆な、と少々 呆れたものだった。あんなものすごいショーを再現できるわけがない。どんなに頑張ったって、あれとく比べられたら絶対に太刀打ち出来ない。比べられる役者 が気の毒だと思った。
 
だから、友人から今度の新しいショー・ガールを見ないかと誘われた時、逡巡した。その友人こそが学生時代、私をショー・ガールに誘ってくれた人だった。
 
「もちろん、全然別物だと思うのよ。」
と、彼女は言った。
「というか、別物だと思ってみなくちゃいけないと思うの。比較しても、絶対にムリだから。でも、見たいの。」
 
だよな~、と思った。
あの舞台の素晴らしさ、凄さを知っているからこそ、怖いもの見たさで見てみたい気持ちもある。三谷幸喜だって馬鹿じゃない。あれを知っていて、わざわざ同じ題名で勝負してくる。となれば、生半可なものであるわけがない。
よし、見るか、と思った。
 
 
 

 

驚いたことに、ショー・ガールの開演は22時だった。大人の時間に開演したい、というのが三谷幸喜の願いだそうだ。もう一つ別の舞台が終わってからの、一時間だけのショー。
 
やりたいことは、わかる。でも普段、娘の朝練のお弁当作りで五時起きの私は、22時はすでにおネムの時間に突入している。寝ちゃったらどうしよう・・・。以前、南座で海老蔵の公演中に一瞬気を失った悪夢が蘇る。がんばらなくちゃ。
 
さて、当日。埼玉で仕事を終えてから友だちは渋谷にやってくる。というのに、午後三時、事故の影響で宇都宮線と湘南新宿ラインが止まる。五時の時点でも、まだかなり遅延しているという情報が。うーむ。
 
心配しながら家を出る。六時、友人からとにかく電車には乗った、遅れそうならメールする、と連絡が入る。私も渋谷到着。渋谷って、なんでこんなに若いコばっかり溢れてるの?ものすごく道が混んでいて、人をかき分けるように、公園通りへ向かう。
 
少し早めにパルコ着。七時半に落ち合って夕食をゆっくりとってから観劇の予定。時間があるのでレストラン街に偵察に行く。と、七階レストラン街に向かって、五階から階段に行列ができている。「最後尾はこちら 二時間待ち」の札が。いったいなに?
 
上がりきって疑問が解ける。「ふなカフェ」ですって。ふなっしーのカフェがオープンしたらしい。と言っても、別にふなっしー本人(?)がいるわけでもない みたい。ふなっしー形のクレープとか、ふなっしーの顔がついたハンバーガーとか。誰がそんなもん食べたがるんじゃい!!と呆れる。子どもが行きたがるのな らわかるが、並んでいるのはいい年した大人たち。うーむ・・・。
 
おかげで他のレストランはむしろ空いている。ほっとして待ち合わせ場所の地下の本売り場へ。ああ、本売り場なんかで待ち合わせしちゃダメ。気がついたら三冊買っている私・・・・。
 
約束の時間に無事間に合った友人と合流、七階のレストランへ。サラダに生春巻き、キッシュとワイン。眠気ざましにチャイも飲む。よもやま話をして、会場へ。開場は9時45分。大人の時間だ。
 
座席は前から四番目、下手側。開けっ放しの舞台には、直前までやっていた芝居のセットがある。茶の間にちゃぶ台、二階には洗濯物。おいおい、おしゃれな ショー・ガールが本当にできるのかい???でも、よく見るとピアノがある。あれを使うのね、などとおしゃべりしているうちに、何の前触れもなく、演者が舞 台に忍び込んできて、そうっとそうっと歩き出した。
 

 

 

 

舞台が始まる。
忍び込んできたのは五人。うち二人は洗濯物の干してある二階に上がり、洗濯物を取っ払い、仕込んであったドラマとベースのところに座った。ピアノが動かされ、演奏者が座り、そして、シルビアと川平が小さなコメディを演じ始めた。
 
川平は探偵、シルビアは謎の依頼者。一人の人物を見張るのが仕事。ターゲットはママチャリに乗る冴えない中年女性。これもシルビアが演じている。
 
依頼者は赤いコートにサングラスの派手目の女。ターゲットは地味目の女。「地味な女は地味じゃない、派手な女は派手じゃない」という歌がすてき。
 
舞台は三鷹市下連雀。糠味噌の匂いがキーとなって事態は進展し、意外なハッピーエンドへ向かう。おしゃれなようなおしゃれじゃないような、楽しいコメディ。
 
第二部は、ショー。黒いミニワンピースに身を包んだシルビア。うーむ、ちょっとお腹が太いわ、と思ってしまう。身体もがっちりしている。
 
歌は素晴らしい。次々とスタンダードナンバーが歌われる。ふたりともとても上手。小さな会場いっぱいに響き渡り、観客と演者がひとつになるのがわかる。すごく楽しい。
 
たぶん、木の実ナナと細川俊之よりこの二人のほうが歌はずっとうまい、と思う。だけど。だけど、木の実ナナはすごかった。彼女がレオタードに網タイツ、シ ルクハットで舞台に現れた瞬間、観客は全員磁石に惹きつけられたように、彼女に釘付けになった。あの姿、オーラ、空気。あれは、やっぱり木の実ナナにしか ないものだったのだ、と改めてわかってしまう。
 

 

 

 

観客が楽しむ、リズムに揺れる。でも、一番楽しんでいるのはきっと歌っている二人だろうと思う。そう思うと悔しい、そんな舞台。
 
シルビアが次々と衣装を買え、最後にはレオタードに網タイツになる。ああ・・・。木の実ナナとあまりにも違う。しっかりした体だけど、あの、すさまじいほとの足の美しさには比べようもない。
 
たぶん、レオタードにならないほうが良かったんじゃないかな、と見終えてから友人と話した。ショー・ガールだからあの格好をしなければならない、という縛 りにとらわれる必要はなかったのかも。あの舞台を知っている人は、全員、あそこで木の実ナナは良かった・・・と思わずにはいられなかっただろうから。無理 しちゃいかん、とつくづくと思ってしまう。
 
まあ、それはしょうがないとして、舞台は素晴らしかった。ショーは最高だった。昔みたいに毎年新しい舞台が見られるならぜひ見たいと思わずにはいられなかった。よくがんばった。
 
鳴り止まない拍手に、時間も時間ですし、おとなしく終わりたいと思います、と宣言した川平慈英。だよね。会場もしまっちゃうし、終電も心配だ。でもなー。アンコールの一つも欲しかった。あと三十分早く始まればできただろうに。惜しい。
 
久しぶりに良い物を見た、という充実感いっぱいになって大満足で帰宅した。
ショー・ガール、昔のものとは全然違うけれど、これはこれでいい舞台だった。
 

2014/9/10