ジュリーに会いに行った私が聖徳太子になったわけ

ジュリーに会いに行った私が聖徳太子になったわけ

2021年7月24日

先週の土曜日、ジュリーの音楽劇「お嬢さんお手上げだ」を見に行きました。梅田のシアター・ドラマシティです。

前売りが始まったのは、まだ2月のことだったかもしれません。転勤の辞令が出ていなかったので、4月に自分がどこにいるかわからず、チケットは諦めていました。この春は動かないと決まったときは、もう、そのことは忘れていました。随分経ってから、eチケットのメールで、席が残っていることを知り、慌てて手配したのです。

席は、17列11番。少し後ろ目ですが、十分舞台は見えます。まだ、こんないい席が残っているのね・・と、少し複雑な私。それから数日たってから、新聞にも広告が載ったので、なかなか売れなかったのかも。大丈夫か、ジュリー。

いつもジュリーの舞台に行くときは、道すがら、あ、この人はジュリーに行くのね、とわかるからおかしい。おばちゃんが、張り切って着飾っているんですな。まあ、私もその一員ですが。

しかし、おばちゃんが、最近は、おばあちゃん、に近づきつつあるので、やや悩ましい。私は遅れてきたファンなので、ジュリーファンとしては、若年層に属すはずです。だって、タイガース時代はファンじゃなかったんですもの。私のジュリーファンデビューは、ソロの「許されない愛」以降です。だから何だ、って言ったらそれまでだけど。

さて、そんなわけで、席に着いたら、後ろの席には、真っ白な頭のおばあさんがいらっしゃいました。たぶん、ものすごく頑張ってきたんだろうな、と思います。お一人で、呆然と、不安な面持ちで座っててらっしゃるから。

お芝居が始まったら、後ろから、ビニールが、がさがさ触れ合う音がします。おさまりません。延々と、がさがさ、がさがさしています。音楽劇なので、とても耳障りです。思い余って、後ろを見たら、おばあさんが、バッグの中を必死で探って何か探してらっしゃいます。ずーっと、探しているようです。やれやれ。お年に免じて、許してあげよう、と、わたしは思いました。

ところが、今度は、斜め後ろから、話し声がします。小さな声ですが、ずーっとしゃべっています。まるで、お茶の間でテレビでも見ているようです。映画館で、この手の方に時々出くわしますが、まさか、ジュリーの舞台で会うとは思わなかった。そっちも、チラッと見ると、ご夫婦連れらしい。奥さんが、ひっきりなしに、旦那に話しかけています。

舞台は、オープニングに出演者が全員で、パリの街角で歌っています。いったい、ジュリーはいつ出てくるのかしら、と思ったら、小太りの、緑の服を着た金髪のおっちゃんが、ジュリーでした!!そ、そんなに太っちゃったの?しかし、途中でソロが入ったら、もう、ジュリーです。すばらしい。つややかな声で歌っています。

パリの街角は一瞬で、舞台は東京の下町に移り、ジュリーは半分引退しかけた漫画家さんです。酒屋で仲間としゃべっているところへ、昔別れた恋人の娘が訪ねてきます。私はあなたの娘です、といって。

製作者も、ジュリーが主人公になったラブストーリーは、もう無理だと踏んだのか、昔の恋物語に、娘が絡みます。ヒロインは、ジュリーの相手役じゃなくて、娘さんなのね。まあ、そうだよなあ・・・。

真ん中で、休憩が入りました。おしゃべりのうるさかったご夫婦は、奥さんが「物販を買ってくるから。」と大声でいって、出て行きました。旦那は、目をつぶって座っています。よほど文句を言ってやろうかと思ったけど、何しろ、おしゃべりのご本人がいなくなってしまったので仕方ありません。再開のブザーがなっても、しばらく戻ってこなくて、旦那さんが立ち上がってキョロキョロしていました。

さて、舞台は再開されます。ジュリーは、ステテコにはらまき姿になったり、アロハに短パンになったりします。(が、最後は白いスーツで決めてくれます。やっぱりかっこいいぜ。)

と、やおら、斜め後ろで言い争いが始まります。夫婦喧嘩です。ごしゃごしゃ、小さい声ですが、明らかに喧嘩しています。舞台の展開も気になりますが、夫婦喧嘩も気になっちゃって、わたしは聖徳太子状態です。ついに旦那が「うるさい!だまれ!お前がいるとつまらんから、帰れ!!」と言い放ち、その後は静寂が訪れます。よかった・・・・。と、思ったら、そのあとは、ズズズ、ズズズ、と鼻をすする音がします。どうやら、奥さんが泣いているようなのです。いや、泣いてもいいって。言い合うより、泣いてるほうが静かだもん。

それ以降は、やっと、舞台に集中できました。脇を固める役者さんたちも達者で、なかなか楽しいお芝居です。ヒロインをやった朝倉みかんさんは、歌唱力が多少怪しげでしたが、よく頑張らはったと思います。

舞台は、ハッピーエンドでした。幕が下りると同時に、例の夫婦の旦那が、奮然と立ち上がって、通路を早足で立ち去りました。カーテンコールがあったのに・・・。

カーテンコールは、もう、皆さん、立ち上がって、ジュリー、ジュリーの大コールです。手を振って、ぴょんぴょん跳ねまわって。おばちゃんたちが、こんなにはしゃげるなんて、ジュリーすごいです。まだまだ大丈夫です。

あんなに太ってしまったジュリー。
でも、歌いだすと、あのきらめきが戻ってくるジュリー。

今のジュリーを受け入れて、味わうことは、なんというか、もう、人生そのものを受け入れることのような気がします。一人で頑張って、ジュリーを見に来たけれど、バッグの中が気になって仕方ないおばあさんも、ついつい喋って喧嘩まで始めてしまうご夫婦も、それぞれの人生を一生懸命生きていて、ジュリーを観るためにここに集った。

年をとっても、変わらずに歌って演技して、いきいきしているジュリーを見ると、物みな全てが愛おしく思われます。
ジュリーって、やっぱりすごいんです。

ジュリーには、まだまだ頑張って欲しいです。

2012/4/11