スクリーンが待っている

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2021年6月13日

40 西川美和 小学館

「きのうの神さま」の西川美和。「日本魅録2」で香川照之が絶賛してはばからなかった西川美和。映画監督で、直木賞候補にも上がったことがある小説家でもある。作った映画は最新作を含めて六作。五作目までは、全て本人の手になるオリジナル脚本であったが、最新作は佐木隆三の「身分帳」が原作。2015年に企画を思いついてからその最新作が出来上がるまでの話を三ヶ月おきに雑誌に連載したものを集め、最後にちょっとおまけも付いたのが、この本である。もうね。すごくよかった。映画がまた見たくなった。

なぜその映画が作りたくなったのか、から始まって、どのように企画が立てられ、脚本が書かれ、キャストが決まり、変動し、撮影が始まり、完成に向かっていったのか。ネタバレができる限りないように注意をはらいながら、それでも映画の芯になる部分の強さ、思いを大切にしながら表現されている。登場する人物の魅力的で愛らしいこと。小憎らしいこと。周囲を固めるスタッフの熱い思い、もちろん監督の強い志。参加せずに行った人、そして出来上がった映画を見た人さえも、すべてが愛おしくなる本である。もうね、映画が見たい。それだけだ。

役所広司という訳者がどんなふうに素晴らしいか、本木雅弘がどんなにひねこびているか(笑)、香川照之がどんなにねちっこいか(笑)、八千草薫がどんなに美しい女優なのか。そんなことも染み入るようにわかってくる。エンドロールに一瞬名前が出るだけのスタッフがどんな思いで映画作成に関わっているかも、わかる気がする。

最後におまけに付いた小説の温かいこと、胸にしみることといったら。西川美和、すごいぞ。この人の映画が、もっと見たい。