ちょっとそこまでひとり旅だれかと旅

ちょっとそこまでひとり旅だれかと旅

80 益田ミリ 幻冬舎

益田ミリは、実はあまり得意ではない。「泣き虫チエ子さん」で、「言わないでも分かってもらえる関係性」こそが愛である、という姿勢にうんざりしてしまったからだ。こうした「察してね」感情が、私は苦手である。人は、言葉を介して分かり合うものではないか。エスパーじゃないんだから。ましてや、顔ではにこにこしてるけど、実は腹ではムカついている、なんて状態を外側から察してほしいなんざあ、無理というものだ、私には。というわけで、少々敬遠気味だった人なのではあるが。でも、この本は楽しかった。

この本でも相変わらず旅先でも新鮮な魚は食べないというかたくなな姿勢に、なんだかなあという思いはある。けれど、今回は一人で頑張ってヘルシンキを旅したりしているのを応援したくなる。そうか、この人は、人との関係性が不器用なんだ。うまく自分を表現できなくて、黙っていてもわかってもらえたらいいのになあ、とどうしても思ってしまうんだ。それはもう、そういう生き方なんだから、私がイラつく必要はないんだな、と少し気が付く。

私もすべての都道府県をやっと制覇して、海外にもまた行き始めた。旅はいいもんなあ。この本に登場する旅先も、たいていは行ったことがあって、名物も食べたことがあるものが多い。知っているものが出てくるからつまんないのかと思ったら「そうそう、そうなのよねー」とむしろ楽しめる。益田ミリの書き方が上手だからなのかもしれない。

おかあさんと京都や東京を歩き回っている話も「あと何回この人と旅ができるだろう」みたいな感想があってしみじみする。私もそう思うもの。歳をとると人生の限りが見えてきて、だからこそ一日一日が輝いてくるような気がする。なかなか良い旅行記であった。