泣き虫チエ子さん1~4

泣き虫チエ子さん1~4

2021年7月24日

18   19 20 21 「泣き虫チエ子さん 1~4」益田ミリ 集英社

益田ミリがどうにもわからない。心優しくホッコリする漫画を描く人、なのだと思う。思うのだけど、読んでいると、なんか苛つく。腹立たしい。この四冊も、静かで穏やかな仲の良い夫婦の日常を描いた漫画なんだと思うが、妙にひっかかる。主人公のチエ子さんと私はきっと仲良くなれないだろうな、と思う。チエ子さんは、私との関わりで嫌な思いをして、うちに帰ったら夫のサクちゃんに、それを癒やしてもらうんだろうなあ。

自営で靴修理の仕事をしているサクちゃんは、健康診断を受ける機会がない。それで、チエ子さんは、食後にハーゲンダッツを食べながら人間ドックを勧めるのだが、サクちゃんは「オレ元気だし、いいよ」という。するとチエ子さんは、「私はサクちゃんに、人間ドック受けたほうがいいよ、なんて言われたことがない」と考える。で、言う。「サクちゃん、あたしが死んでもいいんだ。あたしのこと心配してくれてない。ひどい。だからあたしがこうやって毎晩ハーゲンダッツ食べてても注意しないんだ・・・わたし愛されてない。」サクちゃんは「注意しても食うんだろ?」と思いながらも「わかったから行こ、人間ドック」という。「なんだ?この流れ」と思いながら。

チエ子さんは甘いものが好きだから、サクちゃんはたまに買ってきてくれる。マンゴ-ムースを二つ。チエ子さんは、マンゴームースがそんなに好きじゃない。どうせなら好きなものを食べたい、と思うチエ子は、「サクちゃん、これすごくおいしい。」と食べながら喜んで見せる。それから、「次は二種類買ってきて」と言う。「女の子はどっち食べよーって迷うのが大好きだからだよ」と。

二人が初めて喧嘩したときのこと。チエ子さんは突然「サクちゃんなんかなんにもわかってない!」と怒り出す。「デートのときだってちっとも休ケイしないし あたしもっとお茶とかゆっくりしたいのに サクちゃん目的地ばっかり 歩いてばっかり」と言い募る。合間にサクちゃんは「何が・・・」「え なんのこと?」「あ、ごめんね。疲れてた?」と問う。チエ子さんは「疲れるとかじゃなくてお茶しておしゃべりとかもしたい」と言ってグスッと泣くのだ。サクちゃんは「ごめんね オレ気がつかなくて・・言ってくれたらよかったのに・・」と謝り、二人はお茶をする、というわけだ。で、これは回想シーンで、今は二人でお茶をしながらほっこりしている、という状況が描かれる。つまり、チエ子さんはその時泣いてみせたがために、その後、サクちゃんを思い通りに行動させることができるようになったというわけだ。

どう?苛つかない?結局、チエ子さんは、言葉を信用していないというか、直接的に相手に伝えるのではなく、察してもらうとか、切れて泣くとか、なんとなくそういう流れにするとか、そういう手法でサクちゃんに対している。そして、わかり合っている、愛し合っている、と充足する。でも、読んでると、サクちゃんが馬鹿みたいに見えてくる。誘導され、気がついたら私(チエ子)の思い通りに動かされているのよ、どう?みたいな感じ。

こういうの、ある種の理想なのかな、と思ったりもする。言葉で言わなくても、思い通りに気遣ってくれる彼氏になってほしい、ってことだよな。そうすれば、自分はいつも可愛くて優しい彼女でいられるしね。でも、なんてめんどくさいんだろう。ちゃんと言えよ、言葉で伝えろよ、と私は思っちゃう。しょっちゅうスイーツが登場して、いつもうまいもん食べて、色んなとこ旅行して、邪魔する子供もいなくて、仕事もそれに体や心を全部持っていかれるほどではないけれど、幸せを感じる程度にやって行けて。ぬるま湯みたいな漫画。もたれ合う関係性を是とする、繊細に見せて図々しい精神。言い過ぎ?

益田ミリ、やっぱりわからんな、と思ってしまった。

2019/4/9