ユーミンの罪

ユーミンの罪

2021年7月24日

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「ユーミンの罪」酒井順子 講談社現代新書

最近の音楽事情にはとんと疎い私なのだけれど、ユーミンって、いま、どれくらい聞かれているんだろう。私たちの世代にじゃない若い人たちにとって、ユーミンは懐メロなんだろうか。

というのも、うちの息子が大学に入学した時、サークルで「ユーミン」ってニックネームを付けられたんだよね。なんでだ?と思ったら、どんな音楽を聞くの、と問われていくつかあげた、その中にユーミンがあったからなんだそうだ。そこをピックアップされたということは、それが珍しかったからなんだろうと想像できるわけで。

この本は、1973年から1991年まで発表されたユーミンのアルバムについてあれこれ書いてある。アルバムタイトルと収録曲の題名、そしてそれが発表された年にどんなことがあったかがざっと説明されたあとに、作者の分析が広げられている。

アルバムタイトルや曲名を見ていると、1985年までは、ほぼわかる。歌詞を読むと、自然とメロディが浮かんでくる程度には。ところが、それ以降はちょっとあやしい。思い出せるものもあるが、全然わからないものもある。あまりに謎だったのでYouTubeでちょっと調べてみたら、初耳だった曲さえある。そうか。その辺りから、私はユーミン離れしていったのか、と気がつく。

「ひこうき雲」で荒井由実としてデビューしたときは鮮烈だった。声もメロディも意表をついていて、それでいて共感できるものばかりだった。だんだん離れていってしまったのは、たぶん、ユーミンがとってもおしゃれでトレンディで、私とは違いすぎたからなんだろう。1985年が分岐点になっているのは、何あろう、その年に私が結婚したからじゃなかろうか。

その昔、「クロワッサン症候群」という本があった。クロワッサンという雑誌は創刊当時から翔んでいる女、自立している女がかっこいいと思わせる姿勢を持っていた。「クロワッサン症候群」の作者はそれに乗せられた結果、結婚もできなかった、と恨み節を本の中で展開していた。

いやあなた、と私は思ったものだ。どんなに雑誌が、結婚なんかしないキャリアウーマンってカッコいい、と唱えたとしても、それを選ぶかどうかはあなた次第でしょ。雑誌に責任をなすりつけてどうするの、と。

少し前に書いたが、田珠己さんへ「旅の止め時がわからない」と質問した女性にも、ちょっと同じような感想をもったものだ。

で、この本も、基本的には、ユーミンが社会的にどのような影響力をもったのか、そのせいで女性たちがどんなふうになってしまったのか、その罪を暴いている。ただ、「クロワッサン症候群」のような嫌な後味がないのは、作者が、たとえユーミンが何を言おうと、選んだのは自分だということをよく知っているからだ。さらに言えば、ユーミンも、「みんな、こうした方がいいよ!これが幸せの道だよ!」とプロパガンダを振りかざしたわけではなく、「こう作ればきっとみんなに受け入れられる」と冷静に判断し、計算していた節が見受けられるからだ。まあ、それだけどちらも大人だったというわけですな。

という冷静さを持って読むと、この本はひとつの時代を捉えているという意味で、とても興味深い。ある種の女性史を描いていると言ってもいいと思う。

記憶のあやふやな部分のアルバムをずらりと借りてきて聞こうかしらん、と思ったりもする。でも、1991年って、もう大昔なのね。やっぱり、懐メロかあ・・・・。
2015/1/19