二百十番館にようこそ

二百十番館にようこそ

2021年7月24日

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「二百十番館にようこそ」加納朋子 文藝春秋

加納朋子は久しぶりである。桐野夏生のどろどろした小説のあとに読むと、なんと爽やかな風が吹くのか、と思う。

新卒での就活に失敗して、そのままニート生活に突入し、ゲーム三昧だった主人公が両親に捨てられて、会ったこともない叔父の遺産である、小さな島の小さな保養所を引き継いで、そこで暮らす話である。似たようなニート仲間が徐々に集って、島に残されたお年寄りたちとの交流が始まる。

そんなにうまくいくわけないじゃない、お花畑なお話よね、と言ってしまえばそれまでなのだが、さすが加納朋子、ちゃんと読ませてしまうのである。崖っぷちのニートが、自分の立場を理解し、できることを探し、気がついたら立派に社会復帰している。いいお話だねえ。国家権力にじわじわ首を絞められる話を読んだあとだと、本当に気持ちがいい。

加納さんも結構オタクだったのね、と読みながら思う。ゲーム三昧でその中に生きてしまう感覚も、わからんではない私ではある。ゲームも多少はするし、読書でも、映画でも、なんでも、その中の世界にズルズル引き入れられるとしばらく出てこられなくなる感覚はよーく知っているから。そして、そこは、現実社会とは違うけれど、ちゃんとリアリティのある場所だったりもすると思うから。

夢物語ではあるかもしれないけれど、愛と希望に満ちた話である。これを読んで勇気も出れば、やる気も出る。かもしれない本。

2020/11/30