人質の朗読会

人質の朗読会

2021年7月24日

120
「人質の朗読会」 小川洋子 中央公論社

「妄想気分」「原稿零枚日記」で小川洋子の妄想体質はよーくわかっているのだけれど、やっぱりこれも妄想全開だなーと感心した。

とある事件の人質となった八人が毎晩自分の思い出話を朗読した、その記録が残された、という形の物語。
当たり前のようでその人にしかない不思議な日常の中の出来事が、静かで穏やかで誠実な筆致で描かれている。

もしかしたらとても危うい恐ろしい心の奥底に触れそうで、でもそこに悪意や曲がった心はなく、丁寧でまっすぐな視線で見定められている、そんな物語だ。八人それぞれは違う年齢、違う経歴、違う性別の人間だけれど、その基本性は同じ。それはこの物語の弱さなのか、それとも、人質としてずっと同じ時間を過ごすうちに何らかの共鳴関係が出来上がった結果なのか。

小川洋子という作家の不思議さ脆さ強さ、そのすべてが伝わってくるような物語だった。
私は、好き。

2011/9/24