俳優のノート

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2021年7月24日

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「俳優のノート」山崎努 メディアファクトリー

 

シェイクスピアの「リア王」を演じるにあたって、俳優 山崎努は二年半の準備をして臨んだ。この本は、その間の記録である。
 
山崎努が素晴らしい役者だということは、幾つもの映画やドラマでよく知っていた。が、そのすごさを改めて思い知らされる本であった。
 
「リア王」は1998年、新国立劇場開場記念公演として行われた。そこに至るまで、彼は何度も本を読み、過去の芝居を研究し、自分を見つめ、リア王を理解しようと努力し続ける。一つの役をやるとは、ここまですべてを注ぎ込むことなのか、人生をかけることなのか。その壮絶な闘いに胸を打たれる。
 
1998年といえば、私が下の娘を産んだ年である。準備段階で、伊丹十三が死ぬ。三船敏郎も死ぬ。出演している役者も、何人かは今は鬼籍に入っている人たちである。その頃のことが、驚くほど生々しく思い出される。すぐ横に山崎努がいて、その息遣いまでもが聞ここえるような錯覚さえ覚える。強く、真剣で、切迫した空気がそのまま伝わってくる。
 
一つ一つのセリフ、動作に、ここまでの思いを込めるのか、ここまで命を吹き込むのか。この「リア王」が見たかった、と心から思う。いや、そうではない。今この瞬間にも、そういう芝居をやっている人はどこかにきっといる。であるなら、劇場に行かなければ。そんなふうに思う。
 
まずは、「リア王」を読み直さなければね。作者もあとがきでちくま文庫松岡和子訳のリア王を拝読されるとありがたい、と書いている。

2016/3/3