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「呪いの言葉の解き方」上西充子 晶文社
「呪いの言葉」の呪縛の外に出よう、というのが本書の趣旨である。
例えば、「嫌ならやめればいい」という言葉。それは親身な言葉ではない。本当に親身になってくれる人なら、簡単にはやめられない人間の事情にも目を向けた上で言葉を選ぶはずだ。長時間労働、不払い残業、パワハラ、セクハラ、過酷なノルマ。「嫌ならやめればいい」という言葉は、やめずに文句を言う者に向けられる。そもそもの問題は、働くものを追い詰めている側にあるのに。「嫌ならやめればいい」は、不当な働かせ方という問題の本質を隠し、「なぜやめないのか」という問いによって相手の思考の枠組みを固定化しようとする呪いの言葉である。
ここでは内田樹の言葉が引用されている。
ひとが「答えのない問い」を差し向けるのは、「相手を『ここ』から逃げ出せないようにするため」である。と。
「多くの場合、『答えのない問い』は相手に対して権威的立場を保持し続けたい人、相手を自分の身近に縛り付けておきたい人が口にする」のだ、とも内田は語る。そのうえで内田は、可及的速やかに、その問いを発するものが支配する場から逃げ出すことが正解だとする。
相手を出口のないところに追い込んで傷つけるために発せられるこのような「答えのない問い」も、「呪いの言葉」と言えるだろう。ならば、呪いの言葉が投げつけられたときの対処術は、「なぜ、あなたは『呪いの言葉』を私に投げるのか」と問うことだろう。そして、「あなたは私を逃げ出せない様に、縛りつけて起きたいのですね」と問い返すことだろう。
(引用は「呪いの言葉の解き型」上西充子より)
本書では労働、ジェンダー、政治をめぐる呪いの言葉について章を分け、それへの対抗の仕方を説いている。その後に、灯火の言葉、湧き水の言葉、として人を励まし、肯定する言葉についても書いている。
「逃げるは恥だが役に立つ」や「カルテット」など、私も好きだったドラマが随所に事例としてあげられている。これらのドラマを見ていた時、こんなドラマが多くに受け入れられる時代になったのか!と感嘆したのを覚えている。女性が自ら考え、人目をはばからずに意見し行動することを肯定するドラマが視聴率を取る!!少し前なら考えられないことだったと思う。
最後には、呪いの言葉への切り返し方文例集が載っている。たとえば、最初にあげた事例への答えはこうだ。
「どうせやめられないんだろ?だったら理不尽にも耐えろ」というわけですね。
2019/10/30