女たちのテロル

女たちのテロル

2021年7月24日

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「女たちのテロル」ブレイディみかこ 岩波書店

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」のブレイディみかこである。岩波書店の「波」に連載したものに大幅加筆したもの。「波」に書いた時点では、金子文子(大逆事件で逮捕された女性)の生涯についてのみだったらしい。この本は、それに並行して英国のサフラジェット(19世紀末から20世紀初頭の女性参政権運動家)であるエミリー・デイヴィソンとアイルランド独立運動家のマーガレット・スキニダーについても描いている。

「テロル」と題名にもあるように、三人とも非常に過激で実力主義というか、力づくで何かを手に入れようとする女性たちである。金子文子は大逆事件で死刑を宣告された後に恩赦を受けて刑務所に収監され、転向を迫られるが、そこで自死を選ぶ。というか、未だその真相は明らかではなく、1993年時点で刑務所に記録閲覧を要求したところ、「被収容者の名誉・人権に関する事項および当所の適正な管理運営に必要な事項が記載されて」いるために拒絶され、1995年に同様の要求を行ったところ、50年を経過した文書は廃棄した、とされたという。なんだか安倍政権みたいだわ。

エミリー・デイヴィソンはダービーで国王の馬の前に飛び込んで亡くなった。その事によって、女性参政権主張をアピールした。彼女の過激さに辟易していたはずの他の運動家たちは、彼女の死を手のひらを返してたたえあげることで運動に資した。マーガレット・スキニダーはアイルランドのイースター蜂起で兵士としえ負傷した唯一の女性であった。

金子文子という名前は朴烈とともに逮捕された大逆事件の運動家というたった一行程度の知識しかなかったが、短い中に壮烈な人生を送った女性だと初めて知った。人を他者による評価や肩書で決めることのない鶴見俊輔や、率直な人物評価しかしない林芙美子が彼女について書き残しているということに、非常に納得するものがあった。

それにしても、それほど厚くもない本なのに、読み通すのに非常に時間がかかった。それは、私がやっぱり力に訴えて何かを推進することに大きな苦手意識を持っていること、どんなに正しいと思われることでも、それを推し進めるために暴力に訴えることが、受け入れがたいことである、というところに起因していると思う。読み終えれば、非常に興味深い一冊ではあったが、苦労しいしい読んだこともまた、確かである。

2019/12/10