幻のアフリカ納豆を追え!

幻のアフリカ納豆を追え!

2021年7月24日

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「幻のアフリカ納豆を追え!そして現れた〈サピエンス納豆〉」

高野秀行 新潮社

贔屓にして、新刊が出たら必ず買っちゃう作家の一人、高野秀行。ソマリランドの本で大きな賞を取ったりしているが、以前から納豆については研究している。「謎のアジア納豆」でミャンマーやネパールやブータン、タイ、韓国などの納豆を追っていたが、この本では、更に西アフリカにまで足を伸ばしている。韓国も再訪して以前の研究を更に深めている。

一体、私達の誰が、西アフリカで納豆を常食としているなんて思っていただろう。実は、西アフリカには大豆じゃなくてパルキア豆やバオバブの実、ハイビスカスの実で作られた納豆まである。そして、それがすこぶるうまいのである!

韓国にも実は隠れキリシタンがいて、彼らの食料が納豆であった。というのも、醤油や味噌は醸造に時間がかかるので、隠れて逃げ暮らす彼らには、作るのが難しい。それに対して、短時間で発行する納豆は、逃げ回る彼らには好都合なのである。そもそもが、納豆は軍事食として発展したという説もある。そう、そして、納豆は、多くの地で、味噌や醤油などと同じ調味料のひとつとして扱われているのである。納豆を入れるだけでとても美味しいソースができる。ブルキナファソで高野さんが食べた「鯉と納豆の焼きびたし」は世界最高峰の納豆料理であると絶賛されている。

最後の方では、日本の納豆専門家や編集者などを集めて世界中の納豆を食べ比べ、どれが一番美味しいか、納豆ワールドカップまで開催している。結果、一位は韓国のチョングッチャンとブータンの納豆が同率一位。しかも、その後更に発酵を進めた結果、納豆会社の社長が一位だと言ったのは、ナイジェリアのパルキア豆の納豆だったという。

最終章では、さらに深く歴史をたどる。そして、なんと人類は、縄文時代から納豆を食べていた、ということになる。納豆が先にあり、大豆はあとから。このあたりの考察は、非常に想像力を刺激して、思いがけない世界が広がっていく。

人の行かないところへ行って、人のやらないことをやって、それを面白おかしく書く、のがモットーの高野さんだが、この本でやっていることは、仮説を立て、それを実際に現地に行って実証し、分析し、結果を検証し、それを世界各地で繰り返す、文化人類学のフィールドワークそのものである。この本はいわば学術書のようなものではないかと思えてくる。それくらい、まっとうな文化人類学の研究報告として評価されるべきだと思う。

日本どころか、県内からもまともに出られない昨今、ああ、アフリカへ行ってバオバブ納豆が食べてみたい、韓国の隠れキリシタンの味噌みたいな納豆の料理が味わいたい、と遠くを見ては憧れる、そんな私である。

2020/10/10