村に火をつけ、白痴になれ

村に火をつけ、白痴になれ

2021年7月24日

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「村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝」栗原康 岩波書店

 

伊藤野枝は、ダダイスト辻潤と結婚して子どもを二人産み、「青鞜」を平塚らいてふから引き継ぎ、アナーキスト大杉栄と恋愛関係になって三角関係で大騒ぎになり、子どもを五人も産み、関東大震災後の混乱の中で憲兵隊長の甘粕正彦に28歳で虐殺されて一生を終えた、なんともすさまじい女性である。
 
この本は、伊藤野枝ファンによる熱烈なファンレターかもしれない。何しろ、野枝さん大好きという感情が溢れでて、どこまでが野枝の言葉で、どこまでが地の文なのか判然としない文体なのである。
 
それにしても、今となっては伊藤野枝は歴史上の一人物という捉え方をされているのかと思いきや、野枝の故郷で取材を行うと、世間様にあの淫乱女の故郷だとバレたら困るとか、墓を触るとたたられるとか、大した嫌われ方のようで逆に感心してしまう。実際に伊藤野枝、現在だとしても相当突拍子もない翔んでる女(古いか、この表現・・・)だったようだ。かっこいいけどね。
 
青鞜のらいてふとか山川菊栄とか、当時の婦人運動家たちすら眉をしかめる奔放っぷりだったようだが、その根底には、どうにかなる、どうでもなる、という強い自信と信頼があって、ひ弱な都市生活者なんかよりよほど野育ちのたくましさにあふれていたようだ。
 
作者は野枝の勢いにすっかり心を奪われて、自分の恋愛事情なんかもついでに書いてしまったりして、いやはや、ちょっと太宰治っぽいナルシスト系じゃないか、と思わなくもない。野枝に付き合うと、みんなこうなっちゃうのかなあ、と少し笑える一冊であった。

2016/6/22