2021年7月24日

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「橋」 橋本治 文藝春秋

「蝶のゆくえ」より後に書かれている。「蝶のゆくえ」と同じように、子どもや夫など家族を殺してしまう女性の物語だ。小説なのだけれど、実際にあった事件をありありと思いださせる。子どもを橋から突き落とし、近所の男児を、そのしばらく後に殺してしまった女性や、成金青年実業家を自宅で殺してバラバラにし、生ゴミに出してしまった女性の話だ。

流行った音楽や芸能界のニュース、政治家のスキャンダルなどの背景とともに、二人の女性の成長が淡々と描かれる。最後に人を殺すことが、最初から暗示されながら。

橋本治は、女の気持ちなんて何もわからないマッチョな男性よりも、それから、すごく共感してわかっちゃう女性よりも、もっと冷徹な視点で見透かすように二人の女性を描いている。外側から観察しているのに、内面までも見通してしまっているようで、けれど、感情や体温は押し殺したまま。それが、とても怖い。

これを読んでいると、私だって家族を殺す女性と同じだと思えてくる。一歩間違ったら、そこへ行くのも不思議ではないように思えてくる。何故なんだろう。犯罪を犯した女性の話は、いつだって私を慄然とさせる。

2013/2/3