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「結婚」 井上荒野 角川書店
井上荒野さんは、「全身小説家」井上光晴さんのお嬢さん。そして、井上光晴にも、同じ題名の小説があって、それへのオマージュみたいな小説らしい。でも、私は光晴さんの方を読んだことはない。荒野さんの小説は、素晴らしく面白い。
結婚詐欺師の話。でも、詐欺にあった相手は、自分は騙されていないと思っている。本当は、どこかでわかっているのに、でも、騙されていなくて、いつか彼が帰ってくると思っている、思っていたい。
実際そうなんだろうと思う。結婚詐欺の被害者は、他の被害者のことは気の毒がりながら、自分にだけは彼は本気だったと最後まで思いたがると何かで読んだことがある。
そして、詐欺師の方も、どこかでは本気の部分があるからこそ騙せるんじゃないか、なんて私は思ってしまう。どこかの部分では本当に好きだから、だからこそお金を引き出せるのかもしれない、なんて思ってしまう。
木嶋佳苗とはまた違うんだろうなあ。男の詐欺師は、簡単に被害者を殺さないんじゃないか、と思ってしまうのは、甘いのかな?
詐欺師には、籍が入っている相手もいる。そうか、では、籍が入っていれば、それは詐欺ではないのか?とだんだんわからなくなってくる。反対に、籍が入っていないのに、固く結ばれた関係もあったりするから余計ややこしい。そもそも、詐欺ってなんだ?結婚ってなんだ?男女の関係ってどういうものだ?と、どんどん全てがゆるゆるにふわふわにいいかげんになっていってしまう。
難しいなあ。ってか、これ読んで、結婚なんてしないわ、と若い女性が思いそうだったりしてさ。いや、結婚もいいものですよ、と一応言っておこうか。
2013/1/28