虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか

虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか

2021年7月24日

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「虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか」

石井光太 平凡社

「本当の貧困の話をしよう」の石井光太である。内容は「ケーキの切れない少年たち」ともやや共通するものがある。犯罪を犯した少年たちの抱える背景、環境、障碍と、それをどう乗り越えたらいいか、というテーマである。

虐待と少年犯罪の因果関係は統計でもはっきりと裏付けられる。そこにあるのは負の連鎖だ。虐待を受けた少年たちは、自分の犯した罪と向き合うことができず、自分の命すら大切にできないことが多い。人は、どのような両親のもとに生まれてくるかを選ぶことはできないし、その運によって人生のあり方を決められてしまう場合も多くある。どうすれば、そこから脱せるのか。どうすれば、少年たちは更生できるのか。数多くの事例にあたり、検証し、考え抜かれた本ではあるが、問題の大きさに打ちのめされもする。

少年院や児童自立支援施設がどれだけの力になれるのか。ほぼ絶望的な思いが起きる。その一方で、少年たちに必要なのは、刑や罰ではなく、正しい矯正教育なのだということがつくづくとわかる。少年院などでも熱心に矯正指導は行われるが、全てが規制されている環境下での指導教育は、その場では効果があったように見えても、社会に出ればあっという間に失われてしまう。困難や誘惑の多い社会の中で日々を暮らしながら、その中で行われる、長期に渡る教育こそが求められるのだ。だが、それは現実にどれだけ難しいことなのか。

ステイホームが長く続く中、密かに虐待の餌食になり続けている子供がどれだけいることだろうと思わずにはいられない。手のかかる子供と日々向き合わねばならない親たちの困難、ストレスも如何ばかりかと想像せずにはいられない。人が生まれてきて幸せになる、という、本当は当たり前かもしれないことが、なんと難しく大変なことだろうと思う。

これを読んだからといって、私に何ができるわけでもない。それでも、知りたい、と思うし、知って、考えたい、と思う。社会の中で、困っている子どもたちが居る。困っている親たちも居る。犯罪を犯してしまう少年たちもいる、犯罪の被害にあう人たちもいる。そこから目をそらさずに、自分の生き方を考えたい。

2020/6/7