西荻窪の古本屋さん

西荻窪の古本屋さん

2021年7月24日

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「西荻窪の古本屋さん 音羽館の日々と仕事

 広瀬洋一 本の雑誌社

この本の舞台、音羽館には、五年くらい前までは週に一回のペースで通っていた。娘の習い事の教室が近くにあって、私は娘を送り届けてからお迎えの時間までを、そこらの古本屋をぶらぶらしながら潰すのが常だった。いくつかの古書店を覗いて、最後に音羽館に辿り着き、そこで均一棚をじっくり眺め、店内をぐるりと廻る。そのあいだに、なぜか手持ちのバッグは膨らんでいくのだった。(って、万引きじゃないわよ。ちゃんとお払いしてます。)

音羽館はいい古書店だ。均一棚の並びがいい、といつも感心していたが、この本を読むと、店主がそれなりに願いを込めて棚を作っていることがわかる。そうだよなあ。いい加減に並べてるだけじゃ、あのラインナップは作れないもんなあ。

音羽館は、児童書から漫画から演劇関連からサブカルから、もちろん文学や音楽や古典から、何でも気持ちよく揃っていて、気取ったところがなく、威張ったところもなく、本当に居心地のいい店だ。私はここで小説やエッセイだけじゃなく、絵本も漫画も洋裁の本も買っていた。

「昔日の客」の再販のきっかけを作ったのがこの店だとは知らなかった。古本屋の好きな人にとって、あの本は宝のような存在だとさえ思う。古書店の良さがしみじみとわかるいい本だ。

ところで、古本屋はどんなふうに本の値段を決めるのだろう、と私はいつも不思議だった。ブックオフみたいに均一的に決めてしまうのは、なんだか味気ない。だからと言って、ある作家の本だけが妙に高値で取引されるのも、なんだか嫌な気分だな、なんて思ったりしていた。そうしたら、この本にはこんな風に書いてあった。

 書評でしばしば取り上げられるような人気の人文書や、絶版になってしまったけど高く評価されている本などは、どこの古本屋さんも欲しいですよね。そういう本が棚にズラリ並んでいると「ここはいい店だなあ」って評価になる。でも、売れてしまえばそこは欠けるわけですから、あまり安くするとポロポロ歯が欠けたみたいになってみっともない。だからいい本は高く付けて店に長く置いておきたい。そういう心理が働くんです。その気持ちはわからなくはない。
 でも、売ってナンボの古本屋で「なるべく長く置いておきたい」ということが本来は本末転倒であることもよくわかる話ですよね。あと、「値段を安くしてしまうと、本当にその本がほしい人の許に届かない」という考えの人もいます。つまり、安いと「まあ買っておくか」程度で買ってしまったり、そこまで欲しいわけでもないのに買われていったり。(中略)
 「本当に欲しい人」が誰かなんて、実際にはもちろんわかりません。それは私たち古本屋が決めることでもない。欠けてしまった棚を補充するには、売れた本と同等の価値ある本をどんどん補充する必要があります。となると回転を速くしないといけない。というわけでいつも追われているわけですが、本が回ることはお金が回ることでもあって、棚がそれなりに小まめに変わって、買いやすい価格で買えることが
お客さんにとっても理想的な状態だと私は思うので、いま、そうしているわけです。
            (引用は「西荻窪の古本屋さん」より)

なんということはない、音羽屋の経営方針なのだけれど、なんだか私はこのやり方に感じ入ってしまった。本が好きな人間の気持ちがすごくわかってくれている気がして。

西荻窪は面白い町だ。古書店や旅の専門書店、それに食べ物の美味しいお店、骨董店など楽しみがいっぱいある。それでいて気取っていない。この街で広瀬さんが古本屋を始めて本当に良かった、と私も思う。みんな、西荻に来たら、古本屋さんを何軒か回ってみてください。楽しいよ。

2013/12/12