誕生日を知らない女の子

誕生日を知らない女の子

2021年7月24日

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誕生日を知らない女の子 虐待ーその後の子どもたち」

黒川祥子 集英社

「長い長い郵便屋さんのお話」の隣に並んでいて、「誕生日を知らない女の子」か、子供向けかな?なんて、児童書感覚でひっつかんで借りてしまったら、全然そうじゃなかったという顛末。開高健ノンフィクション賞受賞作だった。

「あいち小児保健医療総合センター」には、被虐待児の心のケアを行う閉鎖病棟がある。そこへの取材を皮切りに、虐待を受けた子どもたちのその後を追ったのが、この本である。

「「家族」を作る」を読んだときに、家族は難しい、と私は思った。難しいけれど、家族に大事にされたり愛されたりすることは必要で、その人の一生を支えるもので、それが足りなかった場合は、どこかで補わないと、生きていくのはとても困難だと知った。この本では、その困難がどのようなものであるかが、具体的に描かれている。読んでいて、とても苦しくなる。

子どもを保護する役目を担っているはずの児童施設には、非常に劣悪な環境のものがある、ということは、たしか「43回の殺意」に書かれていた。それが、この本にも登場する。もちろん、子どものためを思い、大事に育てる施設もたくさんあるのだろう。だが、ただただ子どもを「生かしておく」だけの施設もある。放置された子どもたちは、排便後の処理も知らず、体や頭の洗い方も、歯の磨き方すら知らずに育ってしまう。そして、単なる経験不足であるにもかかわらず、知的障害の診断をくだされる場合すらあるのだ。

私は里親となって、そんな被虐待児を育てようと思えるほどの器ではない。器ではないが、そういう不幸な子どもたちが一人でも減るように、どうしたらいいのか、なにかできることはないのか、とただただ考える程度の狭い器なら持っている。そしてまた、幼い子どもを育てている間の閉塞感、どうしても感情をコントロールできなくなってしまうイラつきなども、身を持って知っている。たぶん、私だけでなく、子どもを育てたことのある人なら、誰しも似たような気持ちは持つだろうとも思う。

この本に描かれたような事実を、もっと多くの人が知ったら。皆が現実を共有し、少しでも被虐待児を守り、かつ、虐待してしまう親たちを救うことができたなら。そう思うばかりだ。
2019/1/29