赤ちゃん教育

赤ちゃん教育

2021年7月24日

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「赤ちゃん教育」野崎歓 青土社

 

著者は、私とあまり歳も違わない重厚な初老の男性である。泣く子も黙る東京大学の知性あふれるフランス文学教授である。文章はあくまでも哲学的で難解な専門用語に満ち溢れ、冷徹な眼差しが事象現象を厳しく見据えている。
 
が、結果として語られるのは、笑っちゃうしかない親ばかエピソードである。うちの子はどんなに可愛らしいか、他のどんな子よりも素敵でかっこよくて賢くて注目を浴びて人々に愛されているか、をでれでれと語っているのである。
 
子供のきかんしゃトーマスに対する熱中と偏愛、運転手に対する尊敬の念、パパじゃなくてママがいい時期の子供の頑固さ。様々な状況は、全て私も経験したことであり、たぶん多くの子育て経験者が通った道である。が、それがあくまでも特別な大きな出来事として重々しく語られる。その揺るぎない姿勢に、読者は更にずっこけ、笑うしかないのである。
 
固い。硬すぎる。故に、なんとも面白い。そんな不思議な本であった。

2018/6/18