雫

107 寺地はるな NHK出版

「カレーの時間」以来の寺地はるな。世渡り上手ではないけれど、なんとか自分らしく生きようとしている人を優しくすくい取る物語。

2025年4月。45歳の主人公の珠と、その雇い主にして中学の同級生の男性の高峰、その男性の遠縁の女性で主人公の友人、しずく、中学時代からの仲間の男性、森。現在から、五年ごとに過去に遡って彼らが描かれる。2000年8月の後、最後に現在に戻って2025年10月。‥‥って、それ、近未来じゃん。今気がついた(笑)。

恋愛に疎く、支配的な母親を抱える珠。外見のカッコよさのために生きてきた結果、何もかもうまく行かない高峰。困った父親から逃れて早くに独り立ちをしたが、人付き合いの苦手なしずく。優しすぎて世渡りがうまく行かない森。彼らは控えめに、緩やかに支え合うけれど、だからと言っていつもうまく行くわけではない。でも、その中でなんとか生きていく。大きな事件が起きるわけでもなく、派手な展開があるわけでもないのに、じんわりりと心に沁みていく。

なんでどんどん過去に遡っていくんだろう、と思ったが、それが謎解きのような効果を生んでいる。今のその人がそうであるのは、過去に何らかの理由があるからだ。それは本当に些細な、忘れてしまうような出来事だったのかもしれないけれど。

私もこの歳になって、ましてや親を亡くして、自分の今を見つめる。なぜ私はこうなのだろうと過去をたどっていくと、どこかで何かに突き当たる。あの時、あの人にこういわれたことが、あの時、こんなことがあったことが、それが今の私に繋がっている。気がつくことがたくさんある。だから、今の私に重ねるように読めた。そして、最後に前を向く。先を見る。わからなかったことも、いやだったことも乗り越えて、今はすべてが受け入れられる。その構成がとても良い。

上手に生きられなくても、自分らしく生きていけばいい。そんな風に思える一冊であった。