ブラジルの光、家族の風景

ブラジルの光、家族の風景

2021年7月24日

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「HARUO OHARA FOTOGRAFIAS ブラジルの光、家族の風景」

大原治雄写真集  サウダージ・ブックス

夫の借りてきた本。よくぞ借りてくれたとほめてあげたい。

ブラジル開拓農民の、ひとつの家族の写真による記録である。1909年、日本に生まれた大原治雄は17歳で家族とともにブラジルに渡った。神戸港を出稿した船内から日記をつけ始め、80歳を過ぎる頃までほぼ毎日記録し続けたという。この記録癖に、私は同じ匂いを嗅ぎつけ、同類としての強い親しみを感じずにはいられない。

この本は、彼の撮った149点の写真で構成される写真集である。それらはクラブやサロンに出品するための芸術写真と、家族写真、私写真とに分けられる。芸術写真のセンスの良さ、美しさにも惹かれるが、それ以上に、暖かく優しく美しい家族写真に私は心打たれる。言葉など何一つ書かれていないのに、そこからは、愛情と誠実さと勇気と信頼、そして大地と生命の力強さを感じ取ることができる。

ブラジル移民の生活は、並大抵のものではなかっただろう。苦労や挫折や疲労の連続だっただろうと想像できる。だが、この写真からは、そうしたネガティブな思いは微塵も感じられない。明るさ、たくましさ、自然の大いなる力。前向きな、真っ直ぐな精神が、ただの紙切れに写しだされた写真から、たしかに伝わってくる。写真というものの持つ力に、私は驚いてしまった。

いつかは一緒に日本に行こうという約束は妻の死とともに封印され、彼は一度も日本に帰ることなく1999年に亡くなった。2016年、日本で初めて「大原治雄写真展」が開催され、彼は魂となってようやく里帰りをした。

写真展は高知県立美術館、伊丹市立美術館、清里フォトミュージアムを巡回した。行きたかったなあ。

2016/8/12