ぐるりのこと

ぐるりのこと

2021年7月24日

「ぐるりのこと」梨木香歩 新潮社

梨木香歩を初めて読んだのは、「西の魔女が死んだ」だったと思うのだけど、そのときはあまり好きではなかった。学校へ行けなくなった少女の話だったと思う。それを読んだころの私は、そんな話が嫌いだった。自分の内面と向き合って、人とうまく関われなくて、親との関係も破綻して、そんな状況の中で誰かに救われる端緒をもらうなんて、そんな話はゴメンだと思った。逃げるように本をとじた覚えさえある。

「家守綺譚」が面白くて、それから、他のエッセイなんぞを読んで、おお、面白いではないか、と思ったのは、ずいぶんたってからのこと。私も、いろんなことを経験したし、いろんなことを考えた。自分の皮を何枚も剥ぎ取って、脱いで脱いで、身軽になった。そうしたら、梨木香歩がひどく面白いではないか。

この本は、図書館でボーっとしていて、たまたま見つけたのだけれど、書かれている事ひとつひとつ、しみじみとわかる気がして、思考のめぐる先が、とても私と近くて、驚いてしまった。イスラムの女性が気になっていることも、ぐるりのこと・・今、自分のいる、この場所から歩いていくことを大事にしたいと思っていることも、目的への最短距離を取ることが、最も良いことだとされている昨今へ疑問を抱いていることも、異文化同士が理解し合うことへの視点も、行きつ戻りつ迷う思考のあり方そのものも・・。

心に響いた文章を幾つか、ここに引用しようと思っていた。でも、あまりに長くなりすぎて、いくつもありすぎて、書くことができない。

そういう本を読めて、良かった、と思う。

2008/3/28