この人を見よ

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2021年7月24日

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「この人を見よ」内澤旬子 小学館

先日、神田神保町東京堂書店で内澤旬子と宮田珠己のトークイベントがあった。どうやらこの本の販促キャンペーンの一環だったらしく、会場で売っていたので購入して、イベント終わりにサインをしてもらった。宮田珠己の本も家から持参して行ってみたら、快くサインしてもらえた。やったね!

内澤さんは「飼い喰い」のイメージが強いので、ついたくましい女性を想像してしまっていたのだが、しゅっとして華奢で美しい人だった。黒っぽいスカートがよく似合っていて、足を斜めに揃えて座っているのがキュートだった。

実はこの人、服装に趣味があって、宮田珠己とか高野秀行などのエンタメノンフ系の友人が常日頃からやけに残念な格好をしているのが気になっていたそうだ。宮田珠己が、ちょっと固い場所で講演などをする時に着る服がないと口走ったのを捕まえて、彼らの服のコーディネートを買って出たという。

イベント当日の宮田珠己は、水色のシャツに紺のジャケット、赤っぽいパンツというスタイルだった。宮田さんは普通に着ていればいいのよ、というテーマに基づいて内澤さんが選んだ服装である。ちなみに、内澤さんのコーディネート以前の宮田珠己の写真が会場で披露されたら、失笑が起きた。ぼんやりした灰緑のジャケット(サイズが大きすぎて肩が落ちている)に白いタートルネックセーター、地味なパンツ。別にどこがどうということもないんだが、やっぱりなんとなく残念感が漂っていた。

そんな内澤さんのこの本は、街で見かけたちょっと不思議な人のスケッチと文である。浅草で見かけたかなり老体のゲイのカップルとか、電車内で器用にまぶたを二重に加工する女子高生とか、道産子会館で一心不乱に夕張メロンソフトクリームを食べるサラリーマンとか。ものすごく変なんじゃないけど、なにか心に残るような人達の姿を捉えている。

人間観察が好きだ、と内澤さんはいう。わかるな~。私も、外に出ると、いろんな人の会話の端っこから、人間関係を想像しちゃったり、この人はどこから来てどこへ行くのだろう、と考えるだけでお腹いっぱいになっちゃったりする。だからこの本はすごく楽しめた。

それから、この本のカバーは少し固い紙で出来ていて、外してちょきちょき切ると、立版古といって、ジオラマみたいに組み立てられるようになっている。これが実に楽しいのだけれど、やっぱり勿体無くてちょん切れない。コピーして作ればいいのかなあ。

ところでこの人達のお仲間の高野秀行さんがノンフィクション大賞を受賞したのはとてもめでたいことなんだが、高野さん、一着もスーツをもっていなくて、授賞式に着ていく服がないという。そこで、内澤さんがコーディネートしたんだそうだ。高野さんは大胸筋が発達していて、思いの外、ものすごくスーツが似あってしまった、と内澤さんは笑っていた。式服だからスーツを選べたけど、高野さんの普段着は難しい。あの人はへんな人だから、あのへんな不思議さ加減を服装で表現するのはものすごく難しい、なんて言っていて、それがまたおかしかった。

イベントは小学館絡みだったはずなのに、何故か本の雑誌社の杉江さん(編集者)が細々と雑用をこなしていて、あれは、取材してあとから雑誌に書くのかしら、それともお友達だから手伝っているのかしら、それとも会社が近いから頼まれたのかしら、なんて考えた。

杉江さんはいい人だ。高野さんの授賞式の二次会で、スピーチをしていて泣いてしまったそうだ。自分が編集した本だからなんだろうけど、作者である高野さんが思わずもらい泣きをした、というほど自分のこととして喜んでいたそうだ。いいやつだなあ。その授賞式の日、高野さんは自分じゃネクタイが絞められないんで、わざわざスーツを購入した店まで行ってネクタイを締めてもらったんだって!いくつだよ、あの人。

サインをしてもらいながら、宮田珠己に前から疑問に思っていたことを質問した。宮田さんは飛行機がダメだというくせに、ジェットコースターは大好きですよね、それはなぜ?と。飛行機とジェットコースターは違うでしょう、と宮田さん。高いのも、スピードも大丈夫なんだけど、狭いのがダメなんですよ、と。じゃあ、ファーストクラスなら大丈夫なのね?と聞くと、あ、大丈夫かもね、と。自家用ジェットならもっと大丈夫?と聞くと、ジャンボジェットくらいの大きさなら、だって。潜水艦もダメなんですって。電車は歩き回れるから大丈夫。つまり、閉所恐怖症的なのね。私も飛行機はダメだけど、高所恐怖症だから、内容はちょっと違っていたわけだ。なるほど。

2013/10/2