どうしてわたしはあの子じゃないの

どうしてわたしはあの子じゃないの

2021年6月4日

38 寺地はるな 双葉社

「夜が暗いとはかぎらない」の寺地はるな。いい作家だとは思っていたが、これもいいぜ。感心してしまった。

山奥の過疎の村に住む少女、天と、天を好きなイケメンの同級生、藤生、そして東京から転向してきた地元名家の娘、ミナ。彼らの過去と今が交互に描かれながら、最後にひとつに集められる。自分を好きになれず、自分を許せず、それでもなんとか必死に生きていた子ども時代、そしてそれを忘れることもなく大人になった現在。人が輝いて見えて、自分が薄汚く見えて、でも、それはそれぞれにみんな相手に対して同じ様な思いを持っていたりもして。それが、大人になってわかる、見えてくる。その瞬間が、温かい。

私は、あんまり人を羨んだり妬んだりしたことのない子どもだった。だけど、どうして私は私なんだろう、どうしてこんなに何も持っていないのだろう、どうしてこんなにうまく行かないんだろうとはいつもいつも思っていた。天みたいに、藤生みたいに、ミナみたいに。いま、遠くから振り返れば、それでも輝く子どもだった、のかもしれない。子供はみんなまっすぐだ。ねじ曲がっている自分を憎むほどに、まっすぐだ。それが愛おしいと思えるようになった。なったことは、きっといいことだ。

何かが出来るとか、顔立ちがきれいだとか、人から認められるとか、そういうこと抜きに。人は、愛おしい、美しい、温かい。明日はきっと良いことがある。そんなふうに思えるような読後感だった。いい作家だなあ。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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