147 ちばてつや 小学館
「あしあと」以来のちばてつや。おそらく同時期に描かれたものだと思われる。「あしあと」にも描かれていた、満州からの引き上げの記憶がこの漫画にも描かれていて、それがどんなに悲惨などんなにつらいものであったかがしのばれる。と同時に、軍も警察も、満州に暮らしていた開拓民をこれっぽっちも守ろうとしなかったことが改めてわかる。国家は国民を守るはずなのに、実際には別のものしか守らないのだなあ。
過去の思い出と、今のちばさんの日々が同時並行で描かれている。ちばさんは齢八十歳を超えて、マンガ家仲間の多くが亡くなった。「じいちゃん先生」などと呼ばれながら宇都宮の芸術大学で漫画を教えていたが、コロナ禍になり、授業もままならなくなる。身体も衰えて様々な病気にもなる。というより、漫画家はそもそもストレスフルな稼業で、前からいろいろな病気にもなっていた。手塚治虫だって、仕事のし過ぎで亡くなったようなものだしなあ。
「あしたのジョー」をはじめとして、ちばさんの漫画の重要人物には「じょ」で始まる人物が多く登場する。満州でちばさん一家が危機に瀕していた時に助けてくれたのが父親の親友である中国人の叙さんという人だったからかもしれない。後に別の人に指摘されて、ちばさんはそれに気が付いた。
思い出話の中には、漫画が子どもの教育の敵とみなされ、PTAから批判を受けたことも描かれていた。校庭に漫画が集められて火をつけて燃やされ、手塚治虫がそれをその場で見せられたのだという。そういえば私も小学校時代、母親から漫画を固く禁じられ、友達の家でこっそり夢中になって読んでいたものだ。なぜあの時漫画がダメだと思ったのか、のちに母に尋ねたら、漫画なんてくだらないものだと思ってたから、と言われた。読んだことはなかったけどね、と。昔も今も、人は自分で考えもせずに正しいとされているらしきものに流される。
少年漫画が大御所で埋め尽くされ、少女漫画に活路を見いだしていた新人漫画家たちの一人がちばてつやであった。いじめられ、辛い思いをする可憐な少女の物語ばかり描かされたが、フラストレーションがたまって、ある時、いじめる悪い奴らを少女がぼこぼこにやっつけちゃう漫画を描いた。これじゃダメだと編集者に叱られたが、締め切りを過ぎていたので、そのままそれが印刷された。すると、その回だけたくさんのファンレターが舞い込んだという。スッキリしました、悪い奴をやっつけてくれてありがとう、という少女たちの声が集まったのだ。当時の編集者たちは、おとなしくて我慢する可憐な少女こそが女の子の定番だと思い込み、それを漫画家に強いていた。でも、女の子たちが喜ぶのはそんな物語ではなかった。ということに、なぜ気が付かなかったのか、編集者たち!女の子だって男の子と同じ人間なのに。
今はもう、ちばさんも大学の先生をやめてしまった。お元気でいらっしゃるだろうか。私はこの漫画から、温かいお人柄や平和を希求する心を受け取った。どうかどうかお元気で長生きしてください。
