トムは真夜中の庭で

トムは真夜中の庭で

2021年7月24日

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「トムは真夜中の庭で」フィリパ・ピアス 岩波書店

夫が借りてきた本。夫も私もかつて読んだことがあるのだが、久しぶりに手にとったのは「思い出のマーニー」が契機だったのか。今読み返しても非常に面白く引き込まれる物語だった。

兄弟が麻疹にかかったせいで、親戚の家に一人で預けられ、友達もおらず退屈していたトム。真夜中に古い時計が13時を打つと、昼間にはなかったはずの庭園に入ることができる。その庭園で彼はハティという少女と友だちになる。

弟の病気が移らないように、また、もし、移っていたとしたら人に移さないように、家から遠く離れた場所に隔離される子供の話は、まるで今現在を映し出しているようだ。そこで出会った不思議な世界。ハティという少女は、マーニーと同じように孤独な境遇でもある。

現実の世界とはまた違った時間の流れ方をしているその世界で、ハティは徐々に成長する。トムとハティが凍った川を一緒にスケートで下っていくシーンを、何故か鮮明に覚えていた。当時の私は、楽しいような、苦しいような、悲しいような不思議な気持ちで、ハティやトムと一緒に滑っていたのだ。

この物語を、今の子供達はどれだけ読んでいるのだろう。こういった物語に浸ることで得られる自分だけの世界、自分だけの秘密がどんなに豊かなものであるか、どんなに心のなかに深いものを与えてくれるのかを思う。本を読むということの意味を改めて考える一冊であった。

2020/6/12