185
「バラとゆびわ」 サッカレイ 岩波少年文庫
宮崎駿さんが、この本について、こう語っている。
おとぎ話ですが、力も知恵もない少年が、かしこく力強くなっていく物語です。子供時代に、ぼくはこの本からなんという大きなはげましと、なぐさめを受けたことでしょう。
兄弟にも友人にも言えないひみつの大事な本でした。
(「本へのとびら」宮崎駿 より引用)
図書館にリクエストしたら、書庫から出してくれた。初版は1952年。借りたのは、1992年に出た10刷だが、本は、真新しいままだった。もう、だれも読まないのかなあ。
読んでみたら、確かに古臭いところはある。王さまやお姫様が出てくるおとぎ話だからね。いまや、民主主義の世の中だ。子どもは、もうこんなおとぎ話を読まないのかなあ。
だけど、すごく面白かった。「はじめのことば」から、懐かしさにわくわくしてしまった。そうだよね。こんなふうに、大人が子どもに向かって心を込めて語りかける物語が、かつてはあったんだよね、と思いだした。
目次が、また、いい。ちょっと紹介すると
一 王さまご一家の朝ごはんのようす
二 どのように、ヴァロロソ王が王冠を手にいれ、どのように、ギグリオ王
子が王冠をうばわれたか、というはなし
三 女魔法使いの「黒杖」や、ほかのおおぜいのえらい人たちのはなし
四 「黒杖」が、アンジェリカ姫の洗礼式によばれなかったはなし
五 アンジェリカ姫がこしもとを見つけたはなし
六 ギグリオ王子のしたこと
・・・・・・・・
(引用は「バラとゆびわ」サッカレイより)
そうなのよね。昔は、こんなふうに、目次に、ちょっとしたあらすじが載っているような物語が、結構あった。そして、子どもだった私は、目次を見ただけでわくわくどきどきしたものだった。多少ネタバレ的な感じはあったけれど、絶妙に興味をひいてくれたものだった。もう、こんな目次も見ないなあ。
この物語には、シェイクスピアが眠っている。ハムレットや、真夏の夜の夢のパックが、密やかに入り込んでいる。イギリス文学だなあ、と思う。
あとがきに、「はじめに手伝っていただいた須賀敦子さん」への謝辞が載っていた。須賀さんファンの夫に見せてあげたら、驚いていた。須賀さんは、イタリア語だけじゃなかったのか。どんな経緯だったのかな。それも含めて、面白い一冊だった。
2012/1/27