小説禁止令に賛同する

小説禁止令に賛同する

2021年7月24日

23

「小説禁止令に賛同する」いとうせいこう 集英社

「「国境なき医師団」を見に行く」の傍らで、こんな小説を書いていたのだなあ、いとうせいこう。「国境・・」が現実を丁寧に見て、愚直なくらい真っ直ぐに思ったことを書いているのに対して、こちらの方は、どうにも難解だ。これとあれとを両立するって、すごい。というか、だからこそバランスが取れたのかもしれないけれど。

この小説(!)は20年位先の近未来の物語。どうやら日本は某隣国に支配されていて、小説は禁止されている。主人公は、収容所に拘束されながら小説禁止令に賛同する随想を書いているという設定。その中に繰り広げられる、夏目漱石や中上健次などを取り上げた小説批判論は、立派な文芸評論である。深い。

随想の中にほのめかされる、主人公への暴虐、拷問。それに対してあくまでも小説を批判するという態度の中で歌い上げられる創作賛歌。どんなに禁止され、抑圧されても、人の心の中、頭の中の自由は縛られないし、想像力は空をも羽ばたき、どんなところへも飛んでいける。

この物語はあくまでも想像の産物に過ぎないのではあるが、世の中がきな臭くなり、まっとうな主張が叩きのめされ、炎上する昨今の風潮の中で強いリアリティをもつことにも気づいてしまう。

いとうせいこう、頑張れ、と心から思う。思ったことを真っ直ぐに書けるこの世であることを目指し、私も、たとえつまんないくだらない感想文であっても、しっかり書いていこうと思う。

2018/5/29