帰れないヨッパライたちへ

2021年7月24日

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「帰れないヨッパライたちへ生きるための深層心理学」

きたやまおさむ NHK出版新書

以前に読んだ北山修+橋本雅之の日本人の〈原罪〉がもっとわかりやすくなったみたいな本かもしれない。「日本人の〈原罪〉」で取り上げられていた「鶴の恩返し」などの昔話がこの本の中でも取り上げられているが、その意味合いが、よりわかりやすくシンプルに説明されている。

きたやまおさむは、ザ・フォーク・クルセダーズとしてブレイクした後に医学生に戻り、精神科医としてイギリスで修行を積んで帰国し、今は精神科医の他に大学で教えたり本を書いたりもしている。彼は、この本の中で、その自らの体験を精神分析の手法を用いてきっちりと振り返っている。だから、読み様によっては、この本は彼の自伝ですらある。
と同時に、日本文化そのものを精神分析しようともしている。そのキーワードは「嫉妬」である。

どうして私たちは嫉妬に弱いのか、若者も中高年たちも私と同じように嫉妬することの苦しみと、嫉妬される恐怖にとらわれたままで身動きがとれないのではないか、そして、嫉妬の痛みに耐えられなくて、嫉妬について考えないようになり、そこから逃げ出し、欲しいものを諦めることになる。政治も経済も日常生活も、それぞれが足を引っ張ることにばかりエネルギーを注ぐので、何も産み出せず、何も決まらず、そのため社会全体もまた停滞し変わることができないのではないか。
                (引用は「帰れないヨッパライたちへ」より)

マイケル・ジャクソンや尾崎豊がなぜあんなふうに死なねばならなかったのか、あるいは加藤和彦が自死したのはどうしてなのか、きたやま氏本人がイギリスへ渡ったのは何故だったのか。そして、私たちが自分をうまく認められなかったり、ごまかしてしまい、外へ向かえず、本当にほしい物を諦めてしまうのはなぜなのか。嫉妬というキーワードを元に、それらがわかりやすく分析されていた。

私は自分が嫉妬心の薄い人間であるとずっと思っていた。でも、それはただ単に逃げていたのかもしれない、と思う。見ないふりをする、最初からあきらめている。そういうことだったのかもしれない。

2013/11/25