オレンジ・アンド・タール

オレンジ・アンド・タール

2021年7月24日

93

「オレンジ・アンド・タール」藤沢周 光文社文庫

「ご本、出しときますね?」で話題になっていたので、読んだ。若林の書いた文庫の解説が秀逸だと皆が褒めていたのだ。

屋上で同級生の飛び降り自殺を目の前で見てしまった高校生と、橋の下で野宿を続ける伝説のスケートボーダーの話。「オレンジ・アンド・タール」は高校生側からの視点で、次に収録されている「シルバー・ビーンズ」はスケートボーダー側からの視点で、同じ事象が描かれている。

どうして生きているんだ、という思春期のモヤついた思いを抱える高校生と、社会への怒りを溜め込んだ若者の物語。なんか若いなーと思った。昭和な若さだ。今の子は、こんな怒りを表明することもないのかも、なとど考えてしまう。

こういうヒリヒリした怒りや焦りからずいぶん縁遠くなった、と思う。社会への怒りといったって、自分自身がその社会を構成している一部なんだから、他人を批判するみたいに怒ったり出来ませんよ、そら。と思うおばさんの私。

でも、解説は面白かった。高校生に共感していた若林が、十年経って読み返すと、もう少し年上のスケートボーダーどころか、彼が怒りを感じる大人たちの気持ちまでわかってしまっている。そういう自分に気づいて戸惑いながら、時々、スケートボードの技を決めた時みたいに「無」になれる自分を外側から見ている。一冊の本が、ひとりの人間の中でどう変わっていくのか、若林にとっての読書がどういうものなのかが伝わってくる解説だった。

この本は、解説を読むために借りたのだと思った。

2017/9/6