22 佐伯泰英 岩波書店
惜櫟荘とは、岩波書店創業者の岩波茂雄が熱海に建てた別荘である。佐伯泰英はこれを譲り受け、修復、保存した。この本は、月刊「図書」2021~2119に連載した「惜櫟荘の四季」に加筆したものである。
佐伯泰英の作品を読んだことはなかった。日大の芸術学部を出て映画畑に進みながら、スペインに移住して闘牛について研究し、のちに作家になった人であるとも全く知らなかった。すまぬ。惜櫟荘は近代数寄屋建築傑作で、この修復は日本建築学会文化賞 を受賞しているという。
この本には、惜櫟荘の四季とともに、インドやスリランカ、ベトナム、パリ、イタリア、スペインなどへの旅行の様子も描かれている。旅の好きな人だ。ちょうど旅先で読んだので、旅情もひとしおであった。
かつてスペインの鴨居玲の居宅を訪れたときの話があった。ちょうど彼は不在だったのだという。二度目の訪問もかなわず、その後、鴨居は自殺した。ともに闘牛愛好家である二人がもし出会っていたら、自分はきっと圧倒されただろうと佐伯氏は語っている。
そういえば私も、数年前、金沢に旅した時に石川県立美術館で鴨居玲の作品に出会っている。その日、なぜか美術館はガラガラにすいていて、私は鴨居玲の「私」という自画像を、たった一人でかぶりつきで見た。ずいぶん長い時間見ていたと思う。吸い込まれそうな強い絵であった。私も、確かに圧倒されたのであった。
時代小説で得た収入を、貴重な建築物の修復保管に投じ、世界の様々な場所を旅してまわる。なんと良い人生であろう。どうかこれからも、よい作品を、よい旅をお続けください。
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