札幌・利尻・礼文旅行記6

札幌・利尻・礼文旅行記6

2021年7月24日

私には、魔力がある。

もう二十年は昔の話だが、義姉がグアム島で結婚式を上げた。それに出席するため、我々夫婦と息子、それに義母の四人でグアムに行ったのだが、あまりに楽し かったので、帰りの空港に向かうバスの中で「帰りたくない」と私はつぶやいてしまったのだ。すると、飛行機の計器に故障が出て、飛行機は飛ばなくなった。 翌早朝まで、われわれはホテル待機を余儀なくされたのである。

このようにして飛行機を止めてしまった前科があるので、私は絶対に「帰りたくない」と言わないことにしていた。どんなに楽しくても、最後には「ああ楽しかった、帰ろうっと」というよう心がけていたのである。

が、私は気が緩んでいたのである。昨日の観光バスの中で、東京は酷暑だと思い出してしまった。なんてここは涼しいんだろう、ああ、帰りたくない、とつぶや いてしまったのだ。あ!!と気づいてすぐに口を押さえたが、時すでに遅し、声を発したあとであった。ああ、どうしよう、やっちまった・・・・と真っ赤に なって慌てる私に、そんなことあるか、気にするな、と息子も夫も笑っていた。

さて。ご機嫌でペシ岬からホテルに戻った我々である。荷物をロビーに預けて、午後二時半の飛行機に間に合うように空港まで送ってもらう手はずであった。ところが、なんと、あなた。飛行機は欠航であるという。

天気はすっかり良くなって、十分飛べる体制なのだが、飛ぶための飛行機の機体がこちらに届いていないのだ。午前中の便が欠航になったら、飛ぶべき飛行機が 来てないから、こっちから帰ることもできないのである。えええええ~~~~~!!聞いてないよーーーーーーー。花れぶんの女将さん、大丈夫だって言ってた じゃーん。

私の魔力である。帰りたくない、といったが最後、飛行機は飛ばないのである。

呆然とする間もなく、夫は動き始める。利尻から千歳に飛べないのなら、稚内便はどうか。フェリーの時間を調べ、乗れそうな稚内千歳便を電話で確認する。夕方の便が二席なら空いている。とりあえず、おさえる。誰が乗る?

息子が稚内に一泊して明日帰ってもいいよ、とそれはそれは嬉しそうに言う。では、と今度は千歳から羽田便を探す。取ってあるチケットの便には間に合わないからだ。夜遅い便をなんとか確保し、明日の稚内千歳便も予約し、取ってあったチケットをキャンセルする。電話を何本かけたかわからないが、何とか全て終了し、やれやれ、フェリー乗り場へ送ってもらった。

思いがけずに稚内行きのフェリーに乗る。利尻礼文間よりも遠いので、時間がかかる。私は自分の魔力の効果に愕然として、がっくりしている。そんなの偶然だよ、科学的根拠がないし、と息子が半笑いで慰めてくる。再現性がないと科学とはいえないよ、というのだが、いやいや、すでに再現してしまったではないか。

フェリー港からタクシーで空港へ向かう。タクシーの運ちゃんは楽しそうだ。そうか、飛ばなかったか、と笑っている。稚内から千歳は飛ぶだろうなあ。飛ばない日もあるけどなあ。今日は飛ぶといいねえ、と他人ごとだから楽しそうにいう。そして、稚内にはなんでもあるよ、と自慢する。あれが日本最北のマクドナル ド。ついでに、日本最大の駐車場付きだあ。そっちは日本最北のモスバーガー。日本最北のパチンコ屋もある、なんでもあるよ。

雲丹もアワビもいくらも普通の食べ物だ、と彼も観光バスのガイドさんみたいなことをいう。漁師の親戚に山ほどもらうし、ありがたみはわかんねえなあ、と。 子供の頃は稚内はもっともっと漁の町で、あちこちに魚が落ちていたもんだ。今は魚が落ちてねえもんなあ、変わったよなあ、と。

空港に到着。チケットを調べると、二席しかなかった千歳便が三席残っている。キャンセルが出たらしい。というわけで、息子も一緒に帰ることになる。稚内で一泊できなくて、息子はむしろ悲しんでいるほどだ。脳天気なやつめ。

余計な金がかかったなあ、と夫が落ち込んでいる。ごめんよ、それも私のせいだ・・・。んなわけあるかあ、と夫も息子も言うけど、ごめんね、間違いなく私の魔力のせいなんだよ。

夕方の飛行機で、千歳に飛ぶ。羽田行きに乗るまでの間に夕食を取ろうということになった。時間が足りないので空いていそうな寿司屋に入って握りを食べた ら雲丹が出てきたのだけれど、この雲丹が・・・・おいしくない。いいものを使っているはずなんだけど、利尻礼文の雲丹と比べたら、全然ダメ。ということに 気づいてしまった。ああ、もう、雲丹を食べてもこう感じるようになっちゃったんだなあ・・・・。三人で愕然としてしまった。

ここで息子とは別れ、彼は札幌へもどる。かくして我々は夜の便にて羽田へと飛んだのであった。ああ、疲れた。

もう二度と「帰りたくない」とはいわないわ、私。長い長い旅であった。

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2015/8/28